120 / 364
第119話
しおりを挟む朝食を終えた恭介は、右腕に嵌めたクォーツ時計で、時刻を確認した。
(……金目の物を盗られてないのな。つまり、犯人の目的は物取りとはちがうはずだ)
左手に輝る黒翡翠の輪具は、恭介が日常的に身につける物の中で、いちばん高価な品である。クォーツの腕時計といい、気絶させておきながら持ち去らないとは、いくぶん不自然に思えた。
(これって、オレ自身が標的だったってことか? だとしたら、ゾッとしねーな……)
思いあたるフシが、まったくないわけではない。少なからず、最近の恭介は目立ちすぎていた。なんとなく自覚していたが、まさか危害を加える者があらわれるとは、正直、予想外の展開だ。なにより、物騒な話である。頭部の包帯に指で触れると、すまし顔で紅茶を飲むルシオンから、質問を受けた。
「キミは、ずいぶん遅くまで仕事をしているのだな。」
「え? いえ、ふだんの残業なら1時間ていどで切り上げるけど、」
「けど?」
「きのうは、ちょっと……、」
「ちょっと?」
「……残って勉強を、」
「なんの勉強だい。」
「それは、ひ、秘密です。」
恭介の返答は歯切れが悪くなる。文官の採用試験に挑戦する件は、誰にも公言していない。また、ザイールと暮らす恭介は、部屋で勉強することができないため、仕事のあと、執務室で参考書(王立図書館から借りてきたもの)をひろげていた。遅くまで残っていても、仕事場であれば言い訳が可能につき、うってつけの場所だった。
「何かワケありのようだが、いったい誰の恨みを買ったんだ。」
「それが判れば、すぐにでも相手を抗議しに行きますよ。」
「ふっ。それもそうだな。……しかし残念だ。キミが無事で在ることに。」
「うん?」
恭介は一瞬、聞きまちがえかと思ったが、ルシオンは笑みを浮かべている。
「考えてもご覧よ。なにせ、大事に育ててきた義弟を横取りされたのだからね。おれ以上に、キミを憎らしく思う存在がいるとは笑止千万だ。」
「……それは、本心ですか。」
「半分くらいはね。」
(おい。笑えない冗談は勘弁してくれ。ただでさえ、あんたがいちばん怪しいってのによ……)
ルシオンとの会話内容に顔の筋肉を歪めると、額の傷が痛みを主張した。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる