恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第115話〈それぞれの挑戦〉

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 コスモポリテスで官吏かんりを目ざす者は、なにも自国民じこくみんだけとは限らなかった。

「え? そうなのか?」
「はい。わたしの祖父はクルセイド出身です。」〔第36話参照〕
「へぇ。ザイールは三世さんせいだったのか。なんで、この国の神官しんかんになろうと思ったんだ?」
「そうですね。わたしのカラダにはクルセイド法国の血が流れていますから、自然と神職の道へ進んでいました。」
「よくわかンねぇけど、天職てんしょくってやつかもな。」
「ふふ、そうかも知れません。」

 文官を目ざすと決意してから数日後、恭介は調べものをするため、王立図書館へ向かうことにした。仕事休みの朝、食堂の席でいっしょになったザイール(ふだんは別々)から、意外な素性すじょうを明かされ、コスモポリテスのおおらかさ、、、、、を実感した。

(……オレが日本人だってことも、まだ誰にもバレてねーしな)

 恭介はカラになった皿を洗って食器棚へ片付けると、ザイールより先に住居をあとにした。城下町へ出たところで、荷車にぐるまを利用して図書館まで移動する。1週間前、ジルヴァンとの共寝を初体験したが、その後はいつもどおりの日常がやってくる。むろん、いちどかぎりですまされる関係ではないため、次回の呼びだしまで恭介は禁欲をいられた。
(また、いつでも呼んでくれよな。……オレはもう、なにも迷わずキミを抱きに行くからさ)

 ジルヴァンへの気持ちを新たにした恭介は、国家資格に挑戦する計画を実行した。少しでも堂々と第6王子に近づきたいと思うあまり、事務内官の立場では満足できなくなっていた。王族の情人イロとしてではなく、ひとりの人間として、ジルヴァンと肩を並べて歩くため、誰にも云えない目標を立てた。

(文官についてアミィに詳しく聞きたかったけど、今回の件は、オレが自分勝手に動いてるンだ。ジルヴァンの耳に届いて、優遇されたら困るからな。ここはやっぱ、内緒ないしょで勉強するしかねぇ……)
 
 試験には実力で合格し、ジルヴァンを驚かせようと考えた恭介は、ひとりで行動を開始した。頭より先に物事をつかんだ心は、目標に忠実である。ところが、いざ王立図書館で国家資格について記述された書物に目をとおすと、難易度の高さにこころざしがくじけそうになった。

(うげっ、マジかよ。文官の試験って、王室用語と戒律かいりつを丸暗記する必要があるのか。しかも、200種類もありやがる。さらに、試験に出るのはその内のたった30問で、正解率によって階位が決定するようだな……)

 20問正解すれば文官資格を得ることは可能だが、側近候補に必要な成績は全問正解である。

(うん? ってことはアミィのやつ、上位の資格を持ってるのか? ……案外あんがい物覚ものおぼえがイイんだな)

 すでに文官として働くアミィは、二十歳はたちの時に試験を受けている。文官の採用試験は2年に1回につき、恭介は来年実施される第262回目に挑戦することになる。

(これに落ちたら、また2年後ってことだな。その時、オレは30歳か……。ん? 待てよ。文官の試験を受けられるのは、満29歳までと書いてあるぞ? おい、嘘だろ? つまり、チャンスはいちど切りかよ!?)

 本棚のあいだで立ち読みしていた恭介は、わなわなと身をふるわせた。とはいえ、いちど決めたことを、そう簡単にあきらめるわけにはいかない。もっとも重要な事柄は、限られた時間で、どこまで努力するかである。恭介はいくつかの関連書物を読みあさり、気がつけば夕方ゆうがたになっていた。読書に熱中していると、空腹くうふくは気にならないらしい。図書館を出たとき、ぐぅ~っと、腹の虫が鳴った。

(そういえば、今回はデュブリスくんに行き合わなかったな……)

 何冊か参考書を借りた恭介は、図書館を振り向いて、フッと思いだし笑いをした。16歳の少年は、見るからに勉強熱心だった。恭介も負けてはいられない。目的に到達するまで、秘めた情熱は冷めるはずもなかった。

(やってやる。オレは文官になるぞ)

 コスモポリテスで生きる恭介は、今や、自分で選んだ道を歩きだしていた。

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