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第113話
しおりを挟む「キョースケっ、……あっ、んっ、」
「ジルヴァン、……はっ、はぁっ、」
寝台の上で抱き合うふたりは、コスモポリテス王国の第6王子と、異世界の住人となり、現在は事務内官兼情人として国事に尽くす日本人の恭介である。今だけは身分や正体を忘れ、互いの肌を求め合った。
「あっ、んぁっ、キョースケぇ!」
「ジ……ル……ヴァン……!」
絶頂を迎えた恭介が勢いよく射精すると、ジルヴァンは体内へ流れ込む熱い飛沫を強く意識した。「ひぁあっ!」と叫び声をあげ、息苦しそうに胸郭を上下させる。密着した部位がヌチュッと過度な音を立て、ふたりの鼓膜を刺激した。
「……キ、キョースケ、動くでない、」
「うん?」
「そのまま、しばらく待つのだ……。」
「……そうか。わかった。」
ジルヴァンは、まだ恭介と離れたくないと思えた。ギュッと背中を抱きしめ、涙がつたう頬を見られないように顔をうつ向ける。だが、恭介は気づいた。
「……どうして泣くんだよ。」
涙の理由を訊ねられたジルヴァンは、小さく首を横に振る。
「わからぬ。……べつに悲しいわけではない。キョースケを困らせたいわけでもない。……なぜか勝手に流れてしまうのだ。」
「へぇ。それってもしかして、泣きたいくらい、オレとの性交渉に感動したってことだったりして。」
「む? 今なんと? ……うっ!?」
恭介はわざと軽口を述べると、顔をあげたジルヴァンの口唇を奪った。そのすきに、つなげていた部位をズルッと引き抜く。
「うあっ!? んんっ!!」
ジルヴァンは最後にもういちどだけ、うっとりとした表情を浮かべ、パタッと脱力する。
「お疲れさん。」
恭介の腕に支えてもらいながら横になると、下腹部に残された異質な温もりに当惑した。
「……キョースケよ、カラダが変な感じだ。まだ、貴様が体内にいるような……、」
「まぁ、しばらくは違和感が続くかもな。最初はけっこうきつかったし、どこも出血しなかったよな? ちょっと見せてくれ。」
「な、なに? あっ、ばかもの! そんなところ見るでない!」
念のため、ジルヴァンの股のあいだを確認しようとしたが、太腿に添えた手をパシンッと払われてしまった。
「なんだよ。恥ずかしいのか?」
「やっ、やめよ。なにも云うな! どこもけがなどしておらぬから、心配せずとも問題ない!」
(終わったあとも必死だな……。かわいすぎるだろ。うお、やべぇ。また勃ちそうになってきた……)
恭介は、苦心して興奮する肉体の流動を抑え込むと、ジルヴァンに寄り添ってカラダを横たえた。男同士の性交渉は互いに初体験となったが、それぞれ予想以上の手応えを感じていた。ジルヴァンの意識は極度の緊張状態から、安眠モードへと誘引されてゆく。耳に届く恭介の息づかいが安定しているため、ウトウトと瞼が重くなった。
「疲れただろう? がまんせずに眠れよ。そばにいるから安心しろ。」
「……では、吾の手をとるのだ。」
「こうか?」
恭介は、ごそごそと布団の下をさぐり、ジルヴァンの手をにぎる。
「……キョースケ。」
「なんだ。」
「キョースケよ、」
「はい。」
「キョー……ス……ケ、」
ジルヴァンは、情人の名前を呼びながら眠りにつく。恭介は、しばらくの間、王子の静かな呼吸を見まもった。
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