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第108話
しおりを挟む恭介は、ついに情人の役目を果たすときが来た。執務室にいたところへ届けられた書状によると、第6王子の直筆と思われる美しい字体で、共寝の呼びだし日時が記されていた。
(うおぉっ、マジか!? いよいよか……!! ってか、ジルヴァンの書く字を初めて見たような……。どんな気持ちで、これを書いたンだろうな……)
恭介は書状を見つめながら、微かに輪具を嵌める指が慄えた。ずいぶん前から待ちわびていた共寝だが、いざとなると改めて心の準備が必要だった。しかも、指定された日時は、あすの夕刻である。
(……あしたの今頃、オレはジルヴァンを抱いているのか)
そう思った途端、下半身がびりびり痙攣した。
(ああっ、くそっ。童貞じゃあるまいし、暴走すんな!)
恭介は書状をバッグへしまうと、執務室の扉に鍵をかけ、コスモポリテス城をあとにした。
城砦と神殿のあいだに、関係者住居が建っている。そこで暮らす神官のザイールと生活を共にしている恭介だが、事務内官として安定した収入を得られるようになった今、ひとり暮らしを計画中である。ところが、城下町の家賃は高く、集合住宅も空室がでないかぎり、契約が不可能な状況が続いている。
「ただいま。」
玄関を開けると、ちょうど夜勤にでるザイールと行き合った。
「おかえりなさい、キョースケさま。」
「今から仕事か?」
「はい。行ってきます。」
「ああ、気をつけてな。」
日常会話をやりとりしてザイールを見送った恭介は、ふと、壁に貼りつけてある薄い鏡に目を留めた。
「……なんか、草臥れた顔してんな。」
鏡に映る姿をながめ、ため息を吐く。自惚れているつもりはないが、この国の王子に好かれている立場が、どうにも奇妙に感じてしまう。
「ジルヴァンのやつ、オレに抱かれて後悔しねぇかな。……いや、させないように尽くすのが情人の役目か? ……やべぇ。なんか、自信なくなってきた。」
軽く夕食をすませた恭介は、入浴するため再びコスモポリテス城へ向かった。ひゅう~っと吹く夜風を身に受けながら、薄暗い道を歩いてゆくと、門衛に共同浴場の使用許可証を提示した。
(このくらい遅い時間なら、利用者も少ないだろ……)
わざわざ閉門ぎりぎりに足を運んだ恭介は、着替えの中から小刀を取りだすと、念入りに無駄毛の処理をした。
(必要ねぇかもだけど、不衛生だからな。……そもそも邪魔くさい)
恭介は慎重な手つきで、恥部の毛を剃っておいた。なるべく、ジルヴァンに不快な思いをさせたくないと考えた結果である。
(……よし。これぐらいか? 脇の下も剃ったし、スネ毛もオーケー。あとはどこだ? 髭は朝でいいよな。共寝は夕方からだしな)
さすがに、つるつる肌とまではいかないが、恭介は気になる部分の手入れをすませてから入浴した。
「どっこいしょっと。う~ん、足がのばせる風呂ってのは、なんでこうも気持ちがいいもんかね。ふぅ~。」
広々とした湯船をひとりで占領しているため、つい、おっさん化する。瞼をとじてリラックスしていると、ジルヴァンを抱くところが目に浮かんでしまった。
「うん。ま、まぁ、イメージトレーニングは大事だな。男とするのは、オレも初めてだし……。」
受け身のジルヴァンにとっても、情人との性交渉は初体験となる。齢二十歳の第6王子と、日本国から飛ばされてきた会計士の恭介は、互いに未知なる共寝を迎えようとしていた。
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