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第105話
しおりを挟む「まったく見込み違いであったわ。あやつめ、気に入らぬ。」
そう云う第4王子レ・シグルトは、王位継承権を持ちながら、情人に対して乱暴な扱いをする非道な一面があった。茶会の席で持ち出す話題としては、いくらか不謹慎に思えたジルヴァンは、円卓に並ぶ豪華な食器に視線を落とし、口を閉ざしていた。もとより、シグルトの話し相手は、同席している歳上のルシオンが適役である。
「シグルト様は、案外、物好きでいらっしゃいますね。」
「ふん、シオンこそ、いったい何十人の情人に愛想を尽かすのだ。」
「さいわい、上限の決まりはございませんので、気のすむまでと、お答えします。」
「貴様は外連味のない男でつまらぬが、正直なところは感心するな。」
「お言葉に感謝します。」
ルシオンは側室が産んだ男士につき、いくつ歳上だろうと身分は第4王子より低い。小馬鹿にされても反論せず、微笑して紅茶の茶碗を口へ運ぶ。高級な茶葉を抽出した、風味豊かな一杯だった。ルシオンは円卓へ茶碗を戻すと、隣に座る第6王子のようすを気にかけた。
「ジル。どうした。」
ルシオンは、義弟の名を割愛してそう呼ぶ。ジルヴァンは義兄のほうへ視線を向けた。
「どうとは? 吾はどうもせぬが……、」
「そうかい? 先程からぼんやりしているではないか。せっかくシグルト様が淹れた紅茶が冷めてしまうぞ。」
「う、うむ。いただこう。」
ふだんから交流の機会が少ないシグルトに、名指しで茶会に呼ばれたジルヴァンは、やや緊張していた。なぜ、急に招待されたのか理由を考えた結果、ひとつの結論にたどり着く。そして今、シグルトに面と向かって問われた。
「ところで、第6王子よ。ようやく、ひとり目の情人を得たそうだな。父上から聞いたぞ。」
「……うむ。イシカワキョースケと申す。」
「イシカワキョースケ? また奇異な響きであるな。そやつの性別は男か?」
やはり、シグルトの興味は共寝のようだ。そう確信したジルは、控えめに頷いた。血のつながった実兄とはいえ、共通の話題は少ない。だが、情人についての案件は、王族のあいだでしか発生しない性事情である。ルシオンは微かに目を細めたが、茶会の席には3人のほか、使用人が部屋の隅に佇むだけの状況につき、掘り下げてもかまわないだろう、という顔つきをしている。さらに、シグルトがだめ押しをする。
「ジルヴァンよ。情人を手厚くもてなす真似だけはするなよ。まさか、恩情をかけてはいまいな? 情人を図に乗らすでないぞ。あの者らと我々とでは、雲泥の差があるのだからな。」
たしかに、ジルヴァンと恭介の立場には天と地ほどの差異があった。情人へ過度な恋愛感情を持つことは“暗黙の掟”で禁止事項とされていたが、ジルにとって恭介の存在は大きくなりつつあった。まして、ジルの判断で、恭介を共寝に呼びだす日程を決めた矢先の忠告につき、茶碗に添えた指が、カタカタと慄えた。当惑するジルヴァンを見つめるふたりの兄上は、小さくため息を吐いた。
「ふうん? その反応だと、イシカワキョースケなる者とは未遂のようだな。」
「……そ、それは、」
「否、答えずともよい。おぬしは奥手ゆえ、最初が肝心であろう。せいぜい、共寝の際は、自分が有利になるよう事を運ぶことだ。」
シグルトはそう云うと、焼き菓子を食べながらルシオンと世間話を始めた。ジルヴァンは、その場に取り残された気分になったが、頭の中で内官布姿の恭介が働くようすを思い浮かべ、気晴らしにした。
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