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第104話
しおりを挟む結局、ユスラは5日間も仕事を休んだ。恭介が待ちぼうけを喰らった日の夕方、執務室に一通の書簡が届く。受け取ったアミィが確認したところ、ユスラから、体調不良でしばらく休むという内容だった。
「いやぁ~ん、ユスラちゃんったら、知恵熱でも出ちゃったのかしらぁ。この仕事って、神経つかうもんね~。それに比べて、キョウくんは事務内官の模範よねぇ。頭もいいし、作業も正確だし、健康的だし、ちょっと堅苦しい性格だけど、一途で真面目だし、うぅ~ん、尊敬しちゃ~う。」
「ど、どうも……。」
アミィは、思ったことを平気な顔で口にする性格だ。嫌味っぽく聞こえないとはいえ、上司からの評価が高くても、素直によろこべない心境である。なぜなら、ザイールと同じく、どこか女性的な雰囲気を持つ青年につき、恭介のほうで配慮が必要な相手だった。
(……べつに、アミィが変な気を起こすわけねぇだろうけど。なんつーか、オレがジルヴァンの情人だってことを知ってるから、こっちが下手に意識しちまうぜ。……それより、問題はユスラだな。きのうの風呂場でのようすを見るかぎり、第4王子と何かあったにちがいねぇぞ。……大丈夫かね)
ユスラについて、繊細な印象を持つ恭介は、王族の情人という立場が重責なのではないかと懸念した。
(ただでさえ、あいつは思ってることをうまく云えない性格だし、気弱な面があるからな。……ってか、第4王子って、どんな野郎なんだ?)
恭介は伝票をかき集める手をとめ、アミィのほうへ、ちらッと視線を送った。ふだんは文官として働くアミィだが、第6王子の側仕えを兼任しているため、他の王子について、なにか情報を得られるかも知れない。そう思い、訊ねてみた。
「あの、第4王子って、どんな感じのひとなんですか?」
「え? なあに? 第4王子ですって? あぁ、レ・シグルト様ね。どんなって云われてもねぇ。あたしはあんまり見かけたことないしぃ、」
「そうなんですか?」
「そうよ~。シグルト様は既婚者だもの。ジル様とは政務の内容が異なるから、公の場であっても交流は少ないの。そもそも、お住まいも離れてるわ。」
(既婚者だって? ユスラの相手には妻がいるのか。うわ、マジか……。それは初耳だったな……)
王族にとって情人との性交渉は、せいぜい夜遊びの延長にすぎない。正妻がいようと側室が何人いようと、情人は許容範囲とされていた。いつか用済みと判断される存在でありながら、共寝に呼ばれたら身を捧げなければならない。結局、情人とはその程度の扱いなのだ。いくらか考えちがいを認めた恭介は、小さくため息を吐いた。
(ユスラのやつ、第4王子から、あくまで情人は情人って扱いを受けてるのか? ……だったら、オレとジルヴァンの関係はどうなるンだ? そもそも身分がちがいすぎるし、最終的に、オレはジルヴァンとずっと一緒にいられるのか? いや、相手は王族だぞ。そんなことが可能なのか?)
ユスラを心配するあまり、こんどは自身の将来に不安を感じてしまった恭介は、余計に頭を悩ませた。
その頃、ジルヴァンは第4王子に呼ばれ、豪華な茶会に参加していた。円卓を囲む人物のなかには、義理の兄であるルシオンの姿もあった。
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