恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
104 / 364

第103話〈情人の存在意義〉

しおりを挟む

 27歳の恭介は、共同浴場で19歳のユスラと“ハダカのつきあい”をしていた。湯船に足をのばしてリラックスする恭介に対し、ユスラは正座せいざをしている。何かを云いよどむ少年を見兼ねた恭介は、控えめな声で切り出した。

「……第4王子と、うまくいって、、、、、、ないのか?」

 ユスラはハッと顔をあげ、困惑の表情を浮かべた。直球すぎたかと思い、恭介は「悪い」と、ひとこと詫びた。いくら同じ情人イロとはいえ、ふたりの立場は異なっている。しかも、恭介はまだ、ジルヴァンといちども性交をしていない。内心、そろそろ頃合ころあいではないかと期待していた。
 いっぽうユスラは、すでに第4王子とのあいだに共寝の経験があるようすにつき、恭介のほうで不甲斐ふがいなさを感じた。もっとも、どういった経緯いきさつで王族の目にまったのか、少し興味はあった。
(……まぁ、オレとジルヴァンの経緯も、かなり、、、特殊なケースだろうけど……。なんだかもう、ずいぶん昔のことみたいだ……)
 第6王子ジルヴァンとの出会いも、共同浴場へ向かう廊下の途中とちゅうだった。〔第16話参照〕

 なつかしい記憶が頭の中をめぐる。いつの間にか恭介は、コスモポリテスの暮らしに馴染なじんでいた。

「ユスラくん、大丈夫か? 無理に話さなくてもいいんだぜ。」 
「……す、すみません。ぼく、思ってることがうまく言葉にできなくて、……考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって……、」
「ああ、わかるよ。オレもキミくらいの年齢ときは、身のまわりの情報量が多すぎて、自棄やけを起こしそうになる毎日だったからな。」
「キョースケさんが自棄を? とてもそんなふうには見えません。」
「それは買いかぶりすぎだ。オレは、つまらない人間だぜ。」
「そ、そんなことありません。キョースケさんの仕事ぶりを見れば、とてもしっかりした方なんだと、わかりますから! もはや、才能だと思います!」
 声高こわだかに過大評価された恭介は、「サンキュー」と云って、素直によろこんだ。同時に、ひとりでは何もできなかっただろうと自重じちょうした。コスモポリテスに飛ばされてから、たくさんの人々のお陰で今の自分がある。他者から受けた恩恵は、けっして忘れていない。

(シリルくん、ゼニスさん……。ザイールに、アミィ。それにボルグさん、デュブリスくん。オレは、みんなに感謝してる。……なあ、ジルヴァン。オレは、ありがたい身の程だと思わないか? こんなオレでも、誰かを助けることができるだろうか。……できれば、その相手はキミがいい。……だからジルヴァン、オレを呼んでくれ。キミを、この手で抱きしめたい……)

 恭介は湯の中で、左手の黒翡翠ジェダイトに指で触れた。他者のために働いて生きたいと思うことは、愛情の目覚めである。恭介は、ジルヴァンとの時間を大切にしたいと考えていた。
「キョースケさん。」
 ユスラに呼ばれて顔をあげると、にっこり微笑ほほえまれた。ようやく話す気分になったようで、ユスラは足をくずして近づいてきた。
「あとで、ご相談したいことがあります。その……、ここではなく、ほかの場所で聞いてもらえませんか?」
「ああ、もちろん。それなら執務室にするか。あしたでよければ、いつもより1時間早く出勤しよう。」
「はい。ぜひ、よろしくお願いします。……では、また明日あす……。」
「ああ、またな。」
 ユスラは約束を取り決めると、先に湯船から出ていった。湯であたためられた少年の細いカラダは、熱を帯びて赤く染まっていた。

 翌日、恭介は早めに出勤して待機していたが、朝の8時を過ぎてもユスラはあらわれず、扉があいたかと思えば「キョウく~ん、おはよぅ~」と、気の抜けた声をだすアミィがやって来た。
「おはようございます。アミィさん。きょうも、仕事がいっぱい届いてますよ。ほら、しっかりしてください。」
「え~? なぁに、キョウくんったらぁ。伝票処理なら、ユスラちゃんにまわしてよ~。って、あら? ……きょうは、お休みかしら~?」
 アミィは、ユスラの姿を探して云う。だが、その日、少年が仕事場に足を運ぶことはなかった。

(……どうしたんだよ、ユスラのやつ。……まさか、あれから何かあったのか?)  
 
 恭介は眉をひそめたが、長机テーブルに置かれた大量の伝票を見たアミィは、「キィーッ!!」と、叫んだ。

     * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...