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第103話〈情人の存在意義〉
しおりを挟む27歳の恭介は、共同浴場で19歳のユスラと“ハダカのつきあい”をしていた。湯船に足をのばしてリラックスする恭介に対し、ユスラは正座をしている。何かを云い澱む少年を見兼ねた恭介は、控えめな声で切り出した。
「……第4王子と、うまくいってないのか?」
ユスラはハッと顔をあげ、困惑の表情を浮かべた。直球すぎたかと思い、恭介は「悪い」と、ひとこと詫びた。いくら同じ情人とはいえ、ふたりの立場は異なっている。しかも、恭介はまだ、ジルヴァンといちども性交をしていない。内心、そろそろ頃合いではないかと期待していた。
いっぽうユスラは、すでに第4王子とのあいだに共寝の経験があるようすにつき、恭介のほうで不甲斐なさを感じた。もっとも、どういった経緯で王族の目に留まったのか、少し興味はあった。
(……まぁ、オレとジルヴァンの経緯も、かなり特殊なケースだろうけど……。なんだかもう、ずいぶん昔のことみたいだ……)
第6王子との出会いも、共同浴場へ向かう廊下の途中だった。〔第16話参照〕
なつかしい記憶が頭の中をめぐる。いつの間にか恭介は、コスモポリテスの暮らしに馴染んでいた。
「ユスラくん、大丈夫か? 無理に話さなくてもいいんだぜ。」
「……す、すみません。ぼく、思ってることがうまく言葉にできなくて、……考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって……、」
「ああ、わかるよ。オレもキミくらいの年齢は、身のまわりの情報量が多すぎて、自棄を起こしそうになる毎日だったからな。」
「キョースケさんが自棄を? とてもそんなふうには見えません。」
「それは買いかぶりすぎだ。オレは、つまらない人間だぜ。」
「そ、そんなことありません。キョースケさんの仕事ぶりを見れば、とてもしっかりした方なんだと、わかりますから! もはや、才能だと思います!」
声高に過大評価された恭介は、「サンキュー」と云って、素直によろこんだ。同時に、ひとりでは何もできなかっただろうと自重した。コスモポリテスに飛ばされてから、たくさんの人々のお陰で今の自分がある。他者から受けた恩恵は、けっして忘れていない。
(シリルくん、ゼニスさん……。ザイールに、アミィ。それにボルグさん、デュブリスくん。オレは、みんなに感謝してる。……なあ、ジルヴァン。オレは、ありがたい身の程だと思わないか? こんなオレでも、誰かを助けることができるだろうか。……できれば、その相手はキミがいい。……だからジルヴァン、オレを呼んでくれ。キミを、この手で抱きしめたい……)
恭介は湯の中で、左手の黒翡翠に指で触れた。他者のために働いて生きたいと思うことは、愛情の目覚めである。恭介は、ジルヴァンとの時間を大切にしたいと考えていた。
「キョースケさん。」
ユスラに呼ばれて顔をあげると、にっこり微笑まれた。ようやく話す気分になったようで、ユスラは足をくずして近づいてきた。
「あとで、ご相談したいことがあります。その……、ここではなく、ほかの場所で聞いてもらえませんか?」
「ああ、もちろん。それなら執務室にするか。あしたでよければ、いつもより1時間早く出勤しよう。」
「はい。ぜひ、よろしくお願いします。……では、また明日……。」
「ああ、またな。」
ユスラは約束を取り決めると、先に湯船から出ていった。湯で温められた少年の細いカラダは、熱を帯びて赤く染まっていた。
翌日、恭介は早めに出勤して待機していたが、朝の8時を過ぎてもユスラはあらわれず、扉があいたかと思えば「キョウく~ん、おはよぅ~」と、気の抜けた声をだすアミィがやって来た。
「おはようございます。アミィさん。きょうも、仕事がいっぱい届いてますよ。ほら、しっかりしてください。」
「え~? なぁに、キョウくんったらぁ。伝票処理なら、ユスラちゃんにまわしてよ~。って、あら? ……きょうは、お休みかしら~?」
アミィは、ユスラの姿を探して云う。だが、その日、少年が仕事場に足を運ぶことはなかった。
(……どうしたんだよ、ユスラのやつ。……まさか、あれから何かあったのか?)
恭介は眉をひそめたが、長机に置かれた大量の伝票を見たアミィは、「キィーッ!!」と、叫んだ。
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