恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 92 話

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 シリルは、コスモポリテスの西緯にしに位置する獣人族けひとぞくの村で、退屈な日常を送っていた。も来る日も、寝て起きて、散歩して、ごはんを食べる。それはそれは平穏へいおんな暮らしぶりだった。オルグロストの荒れ地で、人間同士が切り合う戦場をの当たりにしてから、はや数ヵ月が経過していたが、ゼニスと旅した内容ことは印象深く記憶に残っていた。

「あ~あ、つまらないなぁ。」

 シリルは眠いわけではないが、ねぐらで丸くなっていた。日中はぼんやり過ごすことが多く、夜になり、村の獣人たちが活動を始めるころ就寝しゅうしんする。将来、ゼニスと一緒に暮らすため、人間と同じ生活習慣を心がけていた。獣王子おうじ私生活プライベート干渉かんしょうする者は存在しないため、世話役だけがシリルに付き合っていた。ディランはたまに、忠告もする。

「シリル様。健康のために少し運動をなさったほうが良いですよ。」

 シリルの足許あしもとで読書をしていたディランは、パタンとページをじて云う。シリルは両腕を高くあげ、「うーん!」と声にだして、ため息を吐いた。
「……そうだねぇ。ちょっと歩こうかな。」
「では、衣服ころもをお持ちします。」
「はーい。」
 村にいる時のシリルは、たいてい裸身はだかである。ディランが用意した衣服にそでを通そうとしたが、立ちあがった途端とたんめまい、、、がした。
「あれれ……。」
「シリル様? どうかされましたか、」
「わわっ、なんだか急に熱くなってきた。」
 シリルがよろめくと、ディランの腕が支えた。その瞬間、何かやわらかいものに触れ、ディランはおどろきの表情へと変わる。シリルの胸もとに視線を落とすと、数センチほどりあがっていた。

「シ、シリル様? これはいったい!?」
「……あぁ、また、、だ。大丈夫だよディラン、乳房コレね、すぐ元どおりになるから……、」

 女体化にょたいかの症状を見せるシリルだが、まだ発情期ではない。細胞の活性化にともなう身体の興奮作用にすぎなかったが、ディランは対処法を知らず、うろたえた。
「シリル様、しっかりしてください! 苦しいのですか?」
「……んっ、だ、だいじょ……ぶ、はぁっ、はぁっ、」
「とても大丈夫そうには見えません。お体もこんなに発熱して……、何か、してほしいことはありませんか。」
「……して、……ほしい……ことって?」
「私にできることがあれば、なんでもおっしゃってください。」
「……じゃ、じゃあ、……ディランがんでくれる……? おっぱい、、、、って痛いんだ……、うぅ……、」
 シリルはそう云うと寝台ベッドに横たわり、目をつむった。ディランは少し途惑とまどいつつも「失礼します」と云って、枕もとに膝をつく。両手を使い、ふたつの乳房をひかえめな手つきで揉み込んだ。すると、瞼をとじたままのシリルが、腰をひねって反応する。
「あっ! んんっ!」
「す、すみません、痛かったですか?」
 加減かげんをまちがえたかと思ったディランは咄嗟とっさに謝罪したが、シリルは、
「やめないでぇ……、」
 と、涙目になる。ディランは火照ほてるシリルの肌を見るうちに、おのれの欲望が暴走しそうになった。ばかな考えを無理やり抑制よくせいして、乳房を揉んでいると、ゆっくりたいらな胸板へと戻った。

「両性具有とは、こうなる、、、、ことだったのですね……、」
「……う……ん。……ぼくのカラダ、みんなとはちがうでしょ。……えへへ。びっくりした?」
「……いえ。このたび狼狽ろうばいしてしまい、申し訳ありません。今後のために、適切な処置を学んでおきます。」

 シリルは乱れた呼吸が落ちついてから、衣服を着て散歩に出かけた。昼間につき人影はなく、しん、としずまり返っていたが、とある家屋かおくの前を通ったとき、家内なかからガサガサと物音が聞こえてきた。さらに「あっ、あはっ」と、メスあえぐ声がれてくる。発情中の雌に、オスが交尾しているようだ。シリルは背後のディランを振り返り、くすッ、と笑った。
「このにおい、、、、男女が交接、、して、赤ちゃんをつくってるんだよね。」
「ええ、そのようです。」
 発情中の雌は独特なフェロモンを体外へ放出させるため、身体作用が正常なディランは眉をひそめた。いっぽう、雌のにおいに誘惑されないシリルは、
「いつかぼくも人間ゼニスと交接するんだ~。」
 などと発言し、ディランを不安にさせた。

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