92 / 364
第 91 話 〈その後のシリル〉
しおりを挟む※物語はシリル編となります。
ゼニスと別れ、ひとり森の中を歩くシリルがいた。ワンピースの裾をひらひらと揺らせながら、のんびりと村へ向かう。オルグロストから今日までの出来事が映像となり、頭の中を鮮明にめぐっていた。
「……はぁっ、ゼニスってば、本当にかっこよかったなぁ。あんなにかっこいい人間がいるなんて、ずっと村にいたら、全然知らなかったよ。う~ん、別れたばかりなのに、もう会いたいや。ゼニス、ゼニスぅ。ぼくの旦那さま。えへへ。……早く成獣になりたいなぁ。そうすれば、毎日好きな男と一緒にいられるのに……。」
すっかりゼニスに心酔していたが、シリルにはすでに、ディランルート=ガロム=ユーリーンという、獣王が候補として名をあげた伴侶にふさわしい能力を備えた凛々しい成獣がいた。〔第37話参照〕
風に乗ってシリルのにおいを嗅ぎ分けたディランは、村の入口付近に待機していた。シリルの姿が見えてくると、すぐさま駆け寄った。
「シリル様! なぜ、おひとりなのですか!? 護衛獣をふたり付けたはずですが……、」
血相を変えて訊く。ディランは当初から獣王子のオルグロスト行きを危惧しており、ぐっすり寝つけない夜を過ごしていた。
「ただいま、ディラン。護衛獣なら、たぶん、戻らないと思う。……ぼくを守るため残ったきり、追いついてこなかったんだ。」
「いったい、それはどういうことですか? あちらで何が起きたのです?」
「……うん、色々あったよ。あとで話すね。お父さんに会ってくる。」
「わ、わかりました。途中までご一緒に参りましょう。」
王族の住居(シリルの寝床)は、村の奥にある。追従するディランは、人間のにおいを纏うシリルのようすを気にかけた。それはゼニスという男の痕跡であったが、ディランが面識を持つ機会はなく、以後、姿形の見えない恋敵に悩まされる日々を送るハメとなる。
シリルが報告をすませて自分の塒へ戻ると、ディランによって湯浴みの仕度が整っていた。シリルは衣服を脱ぐと、いつもそうしているように丸太の椅子へ座り、なんの恥じらいもなく股をひらいた。ディランは綿布を湯でしぼり、シリルの排泄器官から丁寧に拭きはじめた。
「……ねぇ、ディラン。」
「なんでございましょう。」
「ディランは、もう成獣なんだよね?」
「はい。そうです。」
獣人にしてはめずらしく、ディランは内衣を身につけているため、肌の露出は少なめだ。村で過ごす獣人たちは、たいてい全裸につき、シリルはディランの男性器をいちども見たことがなかった。
「あのさ、ディランの生殖器も、太くて長いの?」
下半身の部位を誰かと比べる発言を耳にしたディランは、一瞬手がとまった。
「な、なんですって?」
「えへへ。こんなこと聞くなんて、ぼく変だよね。なんでもない、忘れて!」
シリルは笑顔で前言を撤回したが、ディランは眉をひそめ、怪訝な表情になる。黙々とシリルのカラダを拭きながら、オルグロストで何が起きたのか勘ぐった。また、帰らぬ護衛獣についての言及は避けた。
村で暮らすディランが獣王の目にとまり、シリルの世話役に任命されたのは、今から数十年前のことである。当時、成獣になったばかりのディランは、幼いシリルと兄弟のように過ごした。やがて、性毛が生えそろい立派な雄へと成長したディランは、獣王から、シリルが“両性具有”である事実を告げられた。にわかに動揺したディランは、
「恐れながら申しあげます。なぜ、そのような重大な秘事を、私に打ち明けられたのですか。」
と、聞き返さずにはいられなかった。シリルは雌性器官を持つ、希少な存在だった。さらに、獣王からシリルの伴侶になるつもりはないかと訊ねられたディランは、
「誠に光栄なお言葉ですが、まずは、シリル様のお気持ちを大事になさるべきかと存じます。」と応じて、ますます獣王に気に入られる立場となった。
「終わりましたよ。」
「う~ん、ありがとう、ディラン……、」
「眠いようですね。お休みになりますか。」
「うん、寝るぅ。」
肌の汚れをすべて拭き取ったディランは、瞼をこするシリルを抱きあげると、慎重な手つきで寝台まで運んだ。
* * * * * *
5
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる