恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 78 話

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 ゼニスの聴覚は、異常な発達を遂げていた。それと、、、気づいた時にはあとの始末で、罪悪感にとらわれた。村落むら獣人けひとたちは、滅多めったにない宴会の席に夢中になりすぎて、兵士の軍勢が迫りくる足音を聞きのがしていた。ふだんから人間と接点を持たない彼等かれらは、油断ゆだんしていたとも云える。村落の危機ききを誰よりも早く察知したゼニスだが、耳障みみざわりな雑音が頭の芯にまで響くため、激しい頭痛とめまい、、、がした。
 泣きやまないシリルを肩からおろすと、衣服ころもそでを破いて両耳の穴に詰めた。それでも、シリルの泣き声が頭の中に響いてくる。〔第42話参照〕
 
「……シリル、落ちつけよ。ここまでれば、誰も追ってはきやしない。」
「うえぇっ、ううっ、ゼニスぅ。みんなはどうしたの? なんでこんなことになったのぉ、」

 ゼニスは息を切らせながら、項垂うなだれて泣くシリルを気遣きづかった。暗い山中さんちゅうをひたすら走り続けたが、方向が正しいかどうかは不明である。ゼニスが村落へかつぎ込まれたさい、重症を負って意識を失っていた。護衛獣いわく、コスモポリテス、、、、、、、という国がどちらの方角ほうがくに位置するのか未確認である。いったんどこかの町へ向かい、旅の準備を整える必要があった。オルグロストの大地へ足を運んだのはいくさの動きをつかんでのことだったが、隣国のコスモポリテスについて、今のところ詳しい情報を持たないゼニスである。ただひとつ明白なのは、そこにはシリルの故郷さとがあるという事実ことだった。

「……シリル、聞け。おれがおまえを無事に帰してやる。だから、もう泣くな。」

 ゼニスは護衛獣の意志を尊重そんちょうして、シリルを送り届ける決意を固めた。たくされた獣王子おうじを守れるのは、もはやゼニスだけである。残念ながら、ふたりの護衛獣が追いついてくる気配はない。ゼニスは世話になった村落むらの方角へ頭をさげると、再びシリルを抱きあげた。太陽のぼるまでに、安全な町を探すため歩を進めるゼニスだが、実のところ、背中の傷は完治しておらず、ひどくうずいていた。そうとは知らないシリルは、自分で歩くこともできたが、ゼニスの片腕に身をまかせていた。

「……ねぇ、ゼニス。……みんなはどうして切られちゃったの? なにか悪いことをしたのかな……。」

 しばらく経つと、泣きやんだシリルは耳もとでつぶやいた。ゼニスは衣服ころもを詰めて耳栓みみせんをしていたが、会話に支障ししょうはなかった。
「おれは、いくつかの国を渡り歩いてきたが、獣人けひとが人間に危害きがいくわえたという話を聞いたことがない。村落が襲撃された理由なら、獣人族あいつらが原因だったとは思えない。」
「それじゃあ、どうして?」
無慈悲むじひやからがいるんだろうさ。獣人は迫害はくがいされて当然と考える連中が、政力を利用したのだろう。でなければ、重装備の兵士があれほど多人数で襲いにくるはずがない。」
「……なにそれ。よくわからないよ、」
傲慢ごうまんなのは、人間のほうってことだ。」
「ゼニスも、ごうまん、、、、なの?」
「たまにな。」

 シリルの声は、いつもの調子を取り戻していた。ゼニスは内心ホッとしつつ、ひと晩かけて小さな町にたどり着いた。片田舎かたいなかにつき、宿屋やど1軒いっけんしかなく、薄い木の板が張られただけの寝台ベッドは、ゼニスが横たわるとこわれそうに見えた。宿泊料は低価格だが、粗末な内装にあきれもした。
 シリルは体重が軽いため、寝台に腰をおろしても大丈夫そうである。もとより、寝台はひとつしか設置されておらず、ゼニスは床で眠ることにした。その前に食糧の調達は必須である。さいわい、ゼニスは腰巻きベルトの内側に小銭入こぜにいれを身につけていた。これまで腕1本で稼いできた金銭を、充分に持ち合わせている。
「どこ行くの?」
 部屋から出ようとするゼニスを、シリルが引き止めた。そでをぎゅっとつかまれたゼニスは、「心配するな」と云って薄く笑う。
「すぐに戻るから、おまえはここで待っていろ。」
 シリルは「早く戻ってきてね」と返して、ゼニスの背中を見送った。その後、おなか、、、のあたりに手を添えると、咽喉のどふるわせた。ゼニスの温もりを体内がほっしている。シリルにとってゼニスは、生殖行為をするにふさわしいオスであり、両性具有としての雌性しせい器官は、ゆるやかに成熟しつつあった。

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