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第 76 話 〈危険なふたり旅〉
しおりを挟む獣人は太陽が沈みかけてから動き出す。ゼニスは、シリルの来訪に備えて作られた寝床を共有しているため、護衛獣から睨まれていた。
「やい、ゼニスとやら。シリル様に指1本でも触れてみろ。無傷ではおかんぞ!」
「いや、すでに負傷の身だ。変な気を起こそうにも、シリル様の爪で引き裂かれるだろう。」
「それもそうだな。人間ごときが、獣王の血を引くシリル様に敵うはずがない。せいぜい、怪我人らしく、おとなしくしてろよ。」
ゼニスは内心、誤解もいいところだと思い、ため息を吐く。オルグロストの山合いにある獣人族の村落に身を寄せること2日目、シリルの護衛獣ふたりと顔を合わせたゼニスは、あることに気づいた。2匹のうち片方は、昨日の昼間、発情した雌と交尾をしていた雄と同一人物である。一瞬、ゼニスの記憶ちがいかと思われたが、どこからどう見ても顔が似ているため、はっきり訊ねた。
「そっちのおまえ。シリルの護衛のくせして、出先の雌に手をつけてどうする気だ? 相手を妊娠させておきながら、その責任を放棄するつもりなら、最低の男だぞ。」
「なっ、なんだと!? 貴様っ!」
「おまえ、オルグロストについて来た目的は、番いの雌探しだったのか!?」
「く……っ! あ、ああ、そうだよ! おれはもう、コスモポリテスを出なきゃならん年齢だからな! シリル様がオルグロストを目ざすと耳にして、護衛を名乗りでたまでだ! おれは雌と交尾した。それは事実だし、認めるが、シリル様を無事にコスモポリテスまで送り届けてから村を出ると約束する!!」
「貴様という雄は、見損なったぞ! 任務を二の次にしていたとは、なんたることか!!」
ゼニスを放置して、ふたりの護衛獣による口論が始まると、藁の上で丸くなっていたシリルが起きあがり、コーラルレッドの眼を手の甲でこすった。ちなみに全裸である。獣人にとって、それが通常の姿であり、護衛獣たちも腰に1枚の布を巻きつける程度の薄着だった。
「う~ん、うるさいなぁ。なにを騒いでるのぉ……、」
「はっ、シリル様、申し訳ございません!」
「シリル様、どうかこやつめを戒めてください!」
シリルを追いかけて合流し、ゼニスを背負った護衛獣は、まだ若々しいが、先に村へ到着していたほうは、いくらか老けて見えた。獣人の雄は適齢期を過ぎると産まれ育った村を出ていく必要があり、新しい居場所を見つけられなければ、山陰などで孤独な生活を送るしかない。今回、シリルがオルグロストを訪ねた理由は、気晴らし的な部分もあったが、獣王は見聞を広める機会として長旅を許可した。
「シリル様、どうかご容赦ください。わたくしは、この村で番いと出会い、契を交わしました。シリル様をコスモポリテスへお送りした暁には、村をでる所存です。」
手のひらをすり合わせてひざまずく護衛獣に、シリルは「うん。いいよぉ」と、気楽な返事をする。もう1匹の護衛獣は納得できんとばかり顔をしかめたが、獣王子に文句を云える立場ではなかった。
話がまとまったところで、ゼニスはシリルとふたりきりになる。背中の傷口は回復が早く、すでに塞がっていたが、シリルは世話を焼きたがり、包帯を取り替えると云う。
「構わんが、縫合してもいないのに、これほど急速に切創が塞がるとは、いったいどんな手を使ったんだ。」
「薬草なら殺菌効果があるだけだよ。傷口を塞いだのは、ぼくの血を吹きかけたから、再生細胞が活性化したんだと思う。」
ゼニスは帯巻きをゆるめて上衣を脱ぐと、
「おまえの血が、なんだって?」
と、聞き返した。シリルは新しい包帯を用意すると、ゼニスの正面にちょこんと座った。肩に手を添えて口唇を重ねようとするため「よせ」と云って、シリルの手頸を掴んだ。途端に悲しい表情へと変わるため、未熟な部位に指で触れてやると、シリルは「あんっ」と云って腰を慄わせた。シリルは内心悦びつつも、男性器を撫でるゼニスの手をペチッと軽く叩いた。
「まだダメだよ。ぼくが成獣になるまで待ってて……、」
「成長したら、おまえはどうなるんだ?」
「え? みんなと同じでしょ? ぼくにも毛が生えてきて、背が伸びて、色々なところが今より大きくなるよ。」
獣人の未成熟児には性毛が生えておらず下半身は無防備であるが、成獣になると完全に覆われるらしい。ゼニスは「ふうん」と気のない返事をして、それきり会話は途絶えた。
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