恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 74 話

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 オルグロスト共和国で起きた内乱に、傭兵として加勢したゼニスだが、偶然居合いあわせたシリルをかばい、負傷ふしょうした。深傷ふかでを負ったゼニスは、こじんまり、、、、、とした獣人けひと村落むらで、うっすら意識が回復する。天井がゆがんで見え、なぜか大量に敷いたわらの上に横たわっていた。裸身はだかのシリルが、背中を丸めて寄り添っている。

「……おまえが、おれを助けたのか?」

 左肩から背面にかけての傷はきちんとした、、、、、、治療がされており、胸板には包帯がしっかり巻かれている。あきらかに、シリルの意味不明で気絶きぜつするほど悩ましい手当てと異なり、丁寧な処置がほどこされていた。とはいえ、シリルの勘違かんちがいによって唾液だえきを呑まされ、傷口から獣王じゅうおうの血が体内へ浸透しているゼニスは、聴覚の神経が過敏な進化を遂げつつあった。❲第42話参照❳
 ゼニスはシリルの髪にれたあと、やわらかい口唇くちびるに指を添えた。「くぅ、くぅ」と寝息を立てるさまは、まるで“大きな犬”みたいだった。戦場で対面した瞬間は少女かと思うほどきれい、、、容貌かおをしているシリルだが、未熟、、な下半身に目をとめ、男であると再認識した。ゼニスは外衣ズボンいていたが、革靴くつは脱がされていた。土壁つちかべつるぎが立てかけてある。藁のまわりには薬草らしき葉っぱや、おけまれた水、木の実や枯れ枝が散乱しており、ゼニスの目には、野生動物の寝床ねどこのように見えた。

「……ここは何処どこだ。」

 土壁には長方形に切り抜かれ、木の棒で窓の形が造られている。陽光が射し込むため、日中にっちゅうだと思われたが、奇妙なほど、しん、としずまり返っていた。現在地はオルグロストの山合やまあいにある獣人族けひとぞくの村で、彼等かれらが夜行性であることを知らないゼニスは、前かがみで歩き(天井が低いため)外へでた。
 自然界にあるものだけを使って建てた、手造りの家がポツポツ並ぶ。太陽は東緯ひがしの空にのぼり、気温は高めである。ゼニスの出身は寒い地方につき、ひたいが汗ばむくらいの陽気だった。

 人気ひとけのない村中むらなかを裸足のまま歩いてゆくと、ある家屋かおくの裏手から「あっ」「はぁっ」「あんっ」と云う、あえぎ声、、、、が聞こえてきた。ゼニスは怪訝な顔をしつつ、ようすをうかがうと、全裸ぜんらの男女が性交渉セックス最中さいちゅうだった。地面へ四つん這いになるメスに、背後からオスが交接し、カクカクと腰をふっている。獣人のメスは発情中につき、必要な生殖行為としてオスを従順に受け入れていた。白昼堂々、生々しい現場の目撃者となったゼニスは、無意識に顔をしかめ、その場から離れた。

「ゼニス。」

 ふいに名前を呼ばれて振り向くと、後方にシリルが立っていた。物音ものおとの原因をのぞき込もうとするため、腕をのばして制した。だが、シリルの産まれたコスモポリテスの村でも交接それは日常的な光景につき、無用の配慮だった。〔第37話参照〕

「……いよ。」

 ゼニスはそう云って、シリルの腕を引き寄せると、近くの草原へと分け行ってゆく。集落しゅうらくから少し遠ざかったところで、腕を離した。シリルは全裸だが、気にしないフリをした。
「ここは、おまえの村なのか? どうやっておれを連れてきた?」
 シリルは小柄こがらにつき、当たり前の疑問だった。ゼニスの顔を見あげたシリルは、くすッと笑う。
「ぼくの村は、コスモポリテスの西緯にしにあるよ。だから、こことは少しちがうかな。ゼニスを運んだのは、護衛獣おともだよ。」
「おとも?」 
「うん。ぼくは獣王子おうじだから、護衛獣とふたりでオルグロストまで来たんだ。」
おうじ、、、だと?」
 ゼニスは瞬時しゅんじに、そんな莫迦ばかなと思った。ぱだかで歩く王子、、がどこにいるのかとあきれたが、真面目まじめに聞き返すことにした。
「おまえが王子なら、もっと詳しく説明してくれ。なぜ、重症のおれを連れてきた? ほうっておけばよかったものを……、」
 ゼニスは死を覚悟したわけではないが、放置されても構わなかった。戦場で負傷した以上、己の力で乗り越えるしかない。だが、見知らぬ少年に救われた現状に、違和感、、、おぼえた。無償タダで助けられたとは思えない。ゼニスの疑念をよそに、シリルはほおふくらませ、不機嫌をあらわにした。

「なんでそんなこと云うの? ゼニスはぼくがキライなの? ぼくはゼニスが好き!!」

 唐突に大声で告白されたゼニスは、余計に頭が混乱した。

     * * * * * *
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