恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 65 話

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 恭介が帰宅すると、ザイールは湯を浴びたカラダを冷ますため、薄手の衣服ころも姿で一杯いっぱいひっかけていた。

「キョースケさま、おかえりなさい。」

「ただいま。」
 
 くつを脱ぐ必要のない生活様式につき、恭介は内側から玄関の鍵を掛けると、自分の寝床ねどこでもある長椅子ソファに腰をおろした。
「こちらの果実酒、とても美味おいしくいただいてます。キョースケさまも、ご一緒にいかがですか?」
「オレはいいよ。キミの土産みやげに買ってきものだし、ゆっくり呑んでくれ。」
 アルミナ滞在たいざい中に、銘柄めいがらの異なる果実酒を護衛の武官たちと呑みくらべなどをして、それなりに堪能たんのう済みである。恭介は内官布ないかんふを脱ぎ、いつもの一張羅いっちょうらになろうとしたが、そこに、、、ザイールがいるため、一瞬手がとまる。

(うん? ここで脱いでいいのかオレ?)
 
 ふつうに考えれば男同士につき、とくに問題はない。しかし、ザイールは第6王子ジルヴァン同様、受け身、、、である。ふだんは寝室で過ごすザイールだが、なぜか“ごちゃっ”とした床の上に座り、手酌てじゃくをしていた。
(……脱いだらマズイよな。下は何もいてねぇし)
 ジルヴァンには裸身はだか見せている、、、、、恭介だが、ザイールの前となると、ためらいがしょうじた。
(まぁ、ザイールにも、いちどは見られてるけどな。しかも放尿中……)
 恭介はひとりで過去を思いだしながら、一張羅を脇にはさむと、共用トイレで着替えることにした。部屋を出ていこうとすると、背後から飛びつかれてよろめき、転倒てんとうした。ドササッと音がして、床に、ザイールの丸眼鏡まるめがねが落ちている。

「おい、ザイール。大丈夫か?」
「う……、う~ん、……ヒック!」
 
 恭介の背面にザイールの全身が重なっているため、身動きがとれない状況である。よく見ると、ザイールは頭に血がのぼっており、ほろい気分だった。
(まさか、酒がはいると気が大きくなる口か?)
 酔い方には、人それぞれ特徴があるもので、泣きだしたり笑いだしたり、やたら説教をしてきたりと、千差万別せんさばんべつである。恭介は二十歳はたちを過ぎて飲酒をするようになってから、様々な場面に立ち合ってきたが、ザイールのような変化を認めたのは、今回が初めてだった。
「ザイール、重たいよ。どいてくれ、」
 実際は、たいした重さではなかったが、ひとまず体勢を整える必要があった。だが、素面シラフのザイールでは、絶対にあり得ない行動に出る。恭介のほおに手を添えると、顔を接近させた。
(うん? これって……)
 気づいた時には、ザイールと口づけをわしていた。
(うわっ、マジか!?)
 ザイールは酒に酔うと、見境みさかいなく抱きついて口唇くちびるを奪うキス魔、、、だった。しかも、酔った勢いで腕力が増している。恭介はのがれようとしてザイールの肩を掴んだが、押し返してもすぐに顔を近づけてきた。
「ザイール、待て、やめろってば!」
「うぅ~ん、キョースケさまぁ。ヒック!」
 何度もキスをされるうち、恭介のほうであきらめがつく。
(嘘だろ、ザイール……。キミは何をやっているのか、わかってるンだろうな?)
 いな、わかるはずもない。そもそも、奉職者のザイールは、軽はずみな性行為を容認できないサガである。〔第11話参照〕

「キョースケさまぁ、大好きです~。」
 
 これは寝言ねごとたぐいだと恭介は解釈する。現に、ザイールの目はトロン、、、として、声も酔っている。
(……ザイールの土産も宝飾装身具フィビュラにしとけば良かったぜ)
 恭介は口唇を奪われながら、冷静な頭で考える。
(ジルヴァン、ごめんな。キスこれについては、なりゆきと云うか、なんと云うか……、とにかく事故なんだ。次からは気をつけるから、目をつむってくれ。すまん)
 ザイールは、恭介の首筋にしっかり抱きついて、キスをやめる気配はない。こうなった原因は果実酒につき、恭介としても複雑な心境に陥った。しかたなく、ザイールが満足するまで口づけを受けとめたが、下半身は反応を示さなかった。
(……このまま肌を合わせちまっても、朝になれば本人は何もおぼえてないってやつだろ、コレ? ……くそ、据膳すえぜんかよ。……悲しいかな。オレの男根ナニが覚醒してくれない)
 肉体の興奮をあおることができるのは、第6王子だけである。恭介はそう思いながらも、今だけはザイールの背中を抱きしめた。
 
     * * * * * *
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