恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 63 話

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 たのしい時間は長く続かない。そんないわれは、異世界コスモポリテスに来ても同様どうようらしい。ジルが目を醒ました時、恭介は寝台ベッドの上で満身創痍まんしんそういとなっていた。

「キ、キョースケ? どうしたのだ、その顔は!?」
「……どうって、そりゃ、」
(ないだろ)
 相手は王子につき、語尾まで云わずみ込んでおく。
(……あの時、庭園ていえんでルシオンが云いかけたことって、ジルヴァンの寝相ねぞうだったのか?)❲第44話参照❳
 
 ジルヴァンの寝相ねぞうは、とにかく悪い。昨夜さくや添寝そいねをゆるされた恭介は、王子と寝台を共有した。最初のうちは緊張して寝つけずソワソワしたものの、長旅で疲れていたこともあり、次第しだいに眠くなった。すると、先に寝息ねいきを立てるジルヴァンからひたい頭突ずつきを喰らい、突然の衝撃に驚いて目を醒ますと、こんどは寝返りを打つ腕がバシッとあごに当たり、布団の中では両足でドカドカと脇腹わきばらを蹴られる始末である。恭介は、ひとばんじゅう睡眠を妨害ぼうがいされ、結局、2時間ていどしか眠れなかった。ふつうに頭がズキズキする。
「キョースケ、血が出ているではないか、」
「ん? ああ、自分の歯で切ったのかもな。」
 いな、ジルの手がバチンッと顔面に振りおろされた時、口唇くちびるの端を爪で引っかれた。ピリピリと痛むし、血の味がする。
(……あ~、カラダがだるいぜ。……ジルヴァンは何もおぼえてなさそうだし、今日から仕事にも行かなきゃだし、ゆっくり、、、、してらンねーな)
 肩こりがひどい恭介は、首をまわしてストレッチをする。ジルは恭介のれた顔を心配して見つめていたが、おもむろに腕を伸ばすと、ほおをなぞった。

「チクチクする、」
「うん? 無精髭ぶしょうひげのことか?」
 
 恭介の髭はそれほど濃くないが、毎日らなければえてくる体質である。ちなみに、ジルヴァンの顔には髭が生える土台が備わっておらず、何歳になっても生える可能性は低かった。もとより、王族は産まれつき性毛せいもうが薄い人種につき、健康に害はない。
貴様きさまは、かみひげも、下の毛、、、までもが黒いのだな。」
(下? 陰毛いんもうのことなら、ジルヴァンも同じだろ。まさか、生えてないのか?)
 あくまで事故だが、恭介は下半身を露出してしまい、ジルヴァンに直視されている。恭介は陰毛を手入れする性格ではないため、ありのまま、、、、、をバッチリ見られたが、男同士につき極端きょくたんな恥じらいはなかった。
さわられるとは、思わなかったけどな……)
 寝台から抜けでた恭介は、寝間着を脱いで身仕度みじたくを整えた。その際、背後からジルの視線を感じたが、かまわず裸身はだかになって着替えをすませた。
寝間ベッドルームにいて、お互いに隠すものは何もない関係のはずだしな。……オレの裸身が見たければ、好きなだけ見ればいいさ)
 恭介は、少し度胸どきょうがついたようだ。荷物をまとめると、ジルを振り向いた。

「それじゃあ、オレは帰るよ。朝風呂を浴びて、仕事に行かないとだからな。」
「うむ、ゆるす。」

 これでまた、しばらくジルヴァンとはお別れ、、、である。恭介は残念に思ったが、笑顔で退室した。出入口の番人へ認可証を提示して王宮をあとにする。その背中を見送る番人たちは、いつものように小声で会話した。
「見たか、今の。イシカワ殿の顔が腫れていたぞ。」
「あれは、まさに、名誉の負傷、、、、、ではないのか?」
「では、ついに第6王子と閨事ねやごとを……、」
「あの顔を見るかぎり、よほど激しい一夜いちやとなったのだろう。」
「おお、なんたること。いや、しかし、めでたいな。」
「ああ、めでたいことだ。やっと肌を合わせられたのだな。心身共に満たしてこその情人イロである。」
「イシカワ殿よ、よくぞ任務を果たされた。それでこそ情人だ。」
 などと云って誤解する。

 恭介が部屋の鍵を開けた時、ザイールは宿直しゅくちょく当番につき、不在だった。土産物みやげの紙袋を寝台のすみっこに置くと、枕もとの“アルトゥル”に「ただいま」と声をかけた。むろん、チンチン人形ドールから返事はない。だが、数日ぶりに見たアルトゥルが、なつかしく思えてしまう恭介だった。

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