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第 62 話
しおりを挟む初めてジルヴァンと夜を明かすことになった恭介は、意を決して衣服を脱ぐと、女官が用意した寝間着に袖を通した。衿を合わせている時、アミィの言葉を思いだした。〔第22話参照〕
寝台に横たわるジルから「腰紐は結ばずに内側に括るのだぞ」と、声がかかる。さいわい、恭介が着替えをするあいだ、目を合わせないようにしていた。
(……アミィも同じことを云ってたけど、腰紐には、何か意味がありそうだな)
高級感あふれる肌触りの寝間着姿になると、云われたとおり、縫いつけてある幅広の腰紐は内側へ捲いておく。
(もしかして、簡単に脱げるようにしておく必要があるとか?)
恭介の解釈は不正解だった。ジルが寝返りを打ちながら説明する。
「情人の腰紐を結ぶ権利は、王族側にあるのだ。キョースケ、こっちへ来い。」
上体を起こしたジルは、布団を手のひらでポンポン叩く。恭介は素足になっていたので、そのまま寝台にあがり、王子と膝を突き合わせて座った。ふたり分の体重で、ぎしりと軋む音が立つ。
「では、結ぶぞ。」
「ああ、たのむ。」
恭介が胡座をかくと、ジルの腕が伸びてきて腰紐を結んだ。
「なんで、自分じゃ結べない決まりなんだ?」
せっかくなので理由を訊ねてみた。
「それはだな、情人が自ら腰紐を結ぶという行為は、限界をあらわす意味があるそうだ。“もう、あなたのために衣服を脱ぐことはできません”と意思表示をされた場合、選んだ側としても、関係を終わらせる決断を下さねばなるまい。」
「へぇ、そんな暗黙のルールがあるとはな。オレは、てっきり、別れるときは一方的に捨てられるだけかと思ったよ。」
本音が口から漏れると、ジルは意外にも怒気をあらわにする。
「なにを申すか! 吾は貴様を捨てる気など微塵もないぞ!!」
恭介は胸倉に手を当てられた瞬間、股下の布地がずれてしまい、蔽い隠されていたモノがぼろんと露出した。
(あ、やべぇ)
実のところ、着替えの最中から下半身は正常よりも肥大していた。なんとか暴走だけは食い止めていたが、第三者の感想によると、恭介の男根は立派らしい。おそらく、他者の男性器を直視したことなどないジルにとって、恭介のモノが初見だと思われた。
「ジ、ジルヴァン……。これはだな、なんと云うか、誤解だ誤解。ふだんはもっと縮まってて……、」
(オレは何を云ってンだ?)
ジルは、恭介の股のあいだに視線を落としたまま、硬直している。
(マズイぞ。早くこの状況をなんとかしないと!)
恭介は布地を引っ張って隠そうとしたが、なぜかジルに制された。さらに、
「触ってもよいか?」
などと、突飛な質問を投げかけてくる。
(うん? なんだって?)
「キョースケよ、すごいではないか。これは男士として立派であろう。」
「お、おい、ジルヴァン。さっきから何を云ってるンだ?」
「よいな、触るぞ。」
(は!? いやいや待て。そんなことしたら……)
内心うろたえる恭介にかまわず、ジルの細い指が男性器の先端をひと撫でした。
「うわ!? ジルヴァン、よせっ、」
恭介は耐えきれず、王子の腕を強引に振り払った。本来ならば、あり得ない態度を示されたジルなのだが、閨事の経験がないため困惑した。
「す、すまぬ、キョースケ。どこか痛かったか?」
「……いや、……そんなンじゃねぇけど、」
恭介はジルに背中を向けると、覚醒した欲望の肉塊を苦心して宥めた。
(……いくら性交渉をしたことがないからって、無知すぎやしないか? こんな真似をされたら、オレの理性が先に崩壊するぜ)
恭介は、いっそ降参したくなった。抱かせてくれと要求したいところだが、そこまで愚かな情人にはなりたくなかったので、がまんした。
(……ふぅっ、よし。落ちついたな。……使い道もないくせに、勃たせてくれるなよな)
恭介は背後を振り向くと、心配そうに見つめてくるジルに釈明した。
「キミの手を雑に扱って、悪かったな。うまくは云えないけど、触られるのが嫌だとか、そういうワケじゃないから誤解しないでくれ。」
「う、うむ、そうか。解った。」
ジルはホッと気息を吐くと、恭介から贈られた左手の指環にキスをした。
「ジルヴァン……、」
「キョースケよ。供人は疲れたであろう。さあ、ゆっくり休もうではないか。」
ジルはそう云って、添寝を許可する。ふたりで並んで眠るには少し狭く感じたが、恭介は寝間着の裾を直してから横になった。
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