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第 61 話 〈ちょとした誤解〉
しおりを挟む恭介がコスモポリテス城に到着した時、すでに深夜をまわっていた。武官と力者は車輿や馬車の手入れをするため、馬小屋に向かい、恭介はザイールの住居へ帰ろうとしたが、ジルによって引き止められた。
「キョースケよ。もう遅かろう。このような時刻に、ひとりで帰すわけにはいかぬ。今夜は王宮で過ごすといい。」
「オレなら大丈夫だよ。部屋はすぐそこだし、なんの心配も……、」
「これ! 吾の命に従わぬか。貴様は情人であろう。」
「うん? ……ああ、そういうことか、」
5泊6日の遠出を終えた安堵からか、判断力が鈍っていたらしい。己の立場に気づくのが遅れた。
(そうだった。オレは、ジルヴァンの申し出を断るわけには、いかねぇンだよな……)
適切な対応を、うっかり忘れるところだった。恭介は手荷物をさげて歩き、ジルのあとについてゆく。
(客間にでも案内するつもりかね)
王宮関係者専用の出入口では、夜遅くに帰還した第6王子と、そのうしろにいる恭介の姿を交互に見た番人から、一瞬だけ変な顔をされた。
(うん? なんだよ、その反応は)
恭介は疑問に感じたが、ふだんから持ち歩くようにしている認可証を提示すると、不自然な態度を見せた番人の脇を、無言で通り抜けた。
「お、おい。第6王子が、こんな時刻にイシカワ殿を城内に入れたぞ? これは、もしかして、いよいよなのか?」
「どうだろうか。共寝をするような雰囲気ではなかったような……。そもそも、第6王子は訪問地から戻ったばかりで、疲れているだろうに……、」
「そ、そうだよな。やっぱり、今回もちがうよなぁ……、」
真夜中の乾いた空気に、番人たちは、それぞれ深いため息を吐いた。ついつい、恭介と王子の関係が気になってしまう番人である。
(あれ? ここって確か……)
暗い通路を進み、案内された場所は、まさかの寝間である。
(おいおい、マジかよ。今からする気じゃないよな?)
室内に招かれた恭介は、ごくッと唾液を呑んだ。むろん、寝台はひとつしかない。ひとまず壁際に荷物を置くと、どうしてよいのかわからず、棒立ちした。ジルヴァンは、身につけていた宝飾品を外してサイドテーブルに置き、上衣を脱いでいる。左手の人差し指に残された琥珀の指環が、点された蝋燭の火で、きらりと輝った。
(なんだよ、この状況は。オレはどうすれば正解なんだ。……これって共寝なのか? オレは、ようやく共寝に誘われたのか!?)
やや頭が混乱してきた恭介は、思いきりも大事だろうと、早まった行動に出る。寝台に腰をかけるジルヴァンに近づくと、腕を伸ばして肩を掴んだ。
「キョースケ?」
「ジルヴァン、……いいンだな?」
「いいとは何が……、」
「とぼけるなよ。オレをこんなところに連れ込んで、することは決まってるはずだ。」
「貴様は何を云っておるのだ? もしや、共寝のことを申しているのならば、誤解であるぞ。」
「誤解? これのどこが……、」
恥ずかしがり屋のジルが冷静に会話をするため、恭介は勘違いを認めざる負えなかった。
(……だよな。いつもとはちがう流れだけど、ジルヴァンに、今からオレと、どうにかなろうって気配は感じねぇからな)
恭介は腕を離すと、王子の真横に座った。この機を逃せば、情人としてカラダを使うことは一生ないのではと不安になる。
(あ~っ、くそ。ばかか、オレは。何をそんなに焦ってばかりいるんだよ。……こんなのは、ただの性欲じゃねーか。……最低だ)
恭介の葛藤をよそに、コンコンと扉が軽く叩かれて、女官たちが就寝の準備を整えにやって来た。
「ご苦労である。そこに置いてゆけ。」
「かしこまりました。王子様、こちらはイシカワさまの御召し物でございます。」
「うむ。受け取れ、キョースケ。」
「あ、ああ。どうもありがとう、」
女官から手触りの良すぎる寝間着を差しだされた恭介は、なんとなく緊張した。ジルは靴を脱ぐと、運ばれてきた黄金色の桶に足を入れて、壺に汲んである湯水を流した。
「キョースケも洗うとよいぞ。」
「そうさせてもらおうかな。」
恭介は裸足になり、足の指や裏側を丁寧に洗うと、着替えをどうするべきか悩んだ。室内に敷居はなく、引き戸も衝立もない。云わずと痴れた、衣服の下は裸身である。寝間着に袖を通すには、いちど素っ裸になる必要があった。
(ジルヴァンの前で、それはマズイような気が……)
恭介は寝間着を手に、思案顔になった。
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