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第 59 話
しおりを挟む全裸のボルグと共同浴場で顔を合わせたザイールは、思わず下半身へ視線を落とした。恭介とはまるでちがうナニかが、股のあいだについている。ザイールは丸眼鏡を外して顔を背けた。チンチン人形を愛でるザイールにとって、ナマモノへの関心は(本人が考えるよりもずっと)強かった。ふとした瞬間に脳裏へ浮かぶ記憶は、恭介が放尿する姿である。〔第12話参照〕
神官だからと云って、性的な事柄を禁じられているわけではない。むしろ、ザイールは未経験を捧げる相手を探していた。誰かと深く愛し合ってみたいと、そう思っていた。ただ、神殿と目の前に建つ住居を行ったり来たりする生活につき、他者との出会いは少なかった。閉鎖的な空間に奉職する神官のあいだで人気を誇るチンチン人形は、ザイールにとっても癒やしの存在となっていた。しかし、恭介と城下町へ一緒に出かけた際、男らしいふるまいを意識してからと云うもの、妙な切なさに捉われた。
「……ああ、いったい、わたしは、どうしたと云うのでしょう、」
2日後にはアルミナから恭介が戻ってくる。ザイールは嬉しいと思う反面、後ろめたさを感じた。
同日の、夜半の出来事である。側室が産んだ庶子で、第6王子に個人的な関心を示す義兄〈ルシオン=ラフェテス=エルフィート〉は、同性の情人を使い捨てる悪癖の持ち主で、今夜もまた、ひとりの青年が縁を切られて城を去ってゆく。〔第35話参照〕
王宮関係者専用の出入口に立つ番人へ“認可証”を返却すると、泣きながら夜の町へ姿を消した。
「今のって、ルシオン様の情人だよな?」
「ああ。これで13人目だな……。」
「気の毒に。」
「王族の夜遊びは、常識人の感覚とは程遠いってことだろ。」
「仮にも、王家の男児と肉体関係に及んだわけだし、ある意味、貴重な経験をしたことになろう。」
「しかし、情人は一方的にフラれる側だから、やるせないものだ。」
「……それにしても、第6王子は何を考えているのやら。」
「ああ、それは同意見だ。せっかく情人が公認されたと云うのに、共寝に呼びもしないとは、おかしな話だ。一昨日の夜、イシカワ殿が姿を見せた時はやっとかと思ったが、すぐに帰られたしな。あれは共寝ではないな。」
「ふつう、認可された翌日には、最初の呼びだしがあるものだしな。」
「少なくとも、我々が見てきた情人の中で、これほど長らく放置されている人物は、イシカワ殿くらいであろう。……気の毒に。」
「まさか、偽者とか?」
「なんだと?」
「第6王子は煩わしい縁談を避けるために、しかたなく情人を選んだのではないかと云う流言を小耳に挟んだのだ。」
「そんなのは、どうせ、女官共による法螺噺だろう。」
「だとしても、共寝をしない理由がわからんぞ。お互いに禁欲主義だったとか?」
「おい、不謹慎ではないか。情人の件は本人の合意があって成立する関係だぞ。」
「まぁ、そうだよな。恋人でもないのに、寝台を共有する特権が与えられるからな。」
「誰にでも、人肌が恋しくなる夜はあるものだ。」
「ああ、そうかも知れん。そもそも、愛し合うのに身分が邪魔をした時の抜け道として、情人制度が考案されたらしいじゃないか。」
「当時の国王に制度を陳述した王子は、悲恋を乗り越えて、政務に励んだと記録が残されている。」
「王族には王族の道理があると云うことか。」
「ああ、そう云う事にしておこう。我々の仕事は、見まもるだけだからな。」
ふたりの番人は、夜ごとに王宮へ出入りする情人たちを見続けてきた。やはり、気になるのは最近になって公認された恭介の存在である。第6王子との関係に進展がない現在、恭介自身よりも、番人のほうが、まだなのか、いつなのかと、ふたりの共寝を待ち遠しく捉えていた。
王宮で、恭介とジルヴァンの現状を気にする声があがる頃、アルミナ自治領の北の天文台に立ち寄ったふたりは、心身ともに急接近を遂げていた。
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