恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 57 話

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 長い夜だった。領主から首をめられた恭介は、王子の寝室に運ばれてきた消毒液とガーゼで手当てを受けると、ジルに誘導されるカタチで寝台ベッドへ移動した。そこで、たわむれる自由をゆるされた。

「……んっ、……キョースケ、」
 
 恭介はジルのカラダを仰臥させると、ゆっくりおおかぶさり、口唇くちびるを重ねた。キスだけでは物足ものたりなく感じた恭介は、織物に手をかけてえりをひらくと、そでから腕を引き抜いた。片側だけあらわになった胸の突起とっきを愛撫する。

「キョースケ、そこは……っ、」
 
 刺激を受けた乳頭はピンッと張りつめてかたくなり、ジルは「あっ、あっ」と云って当惑した。
「……乳頭ここめちゃダメか?」
 クニクニと指先だけで乳首、、れる恭介に、ジルは顔を真っ赤にして憤慨ふんがいした。
「あ、当たり前だっ! 調子に乗るでないっ!!」
「だよな。さすがに、これくらいが限度だろう。ジルヴァンこそ、なんでこんなふうに肌をゆるしたンだ? 共寝だって、まだいちどもねぇのに。まさか、ご褒美ほうびのつもりじゃないよな?」
 ジルは上体を起こして衿を合わせなおすと、恭介の胸もと目がけて枕を投げつけた。
「みなまで申すな! 恥ずかしかろう!!」
「ははっ、やっぱり図星か。」
「むぅっ、キョースケ!」
 ジルは、むやみに腕を振りまわしてくる。恭介は情人イロであることを、改めて実感した。寝台の上で王子と過ごせる人間は(今のところ)自分ひとりしかいない。領主に正体を明かせば、何かしらの攻撃を喰らうだろうと思っていたが、ジルの体面を守るため、恭介は一切いっさい抵抗しなかった。ジルは恭介の首筋に貼りつけたガーゼを見つめ、「すまなかった」と、ひとこと詫びた。

「こんな傷どうってことないさ。そんなに気落ちすんなって。……それより、ありがとうな、ジルヴァン。もしかして、オレが最初に期待するなとか云ったから、共寝に呼べずにいるのか? だったら忘れてくれ。キミが望めばいつでも抱きに行く。オレに、忠誠を誓わせてほしい。」
 恭介はジルの左手を持ちあげると、指先にキスをした。さすがに、好きだと告白する訳にはいかない。王子にとって情人とは、一方的に縁を断ち切ることができる存在でもある。

(オレにれているうちに抱かせてもらわなきゃ、こっちが損失そんだしな……)
 
 当初、同性に恋愛感情をいだく自分自身を想像できずにいた恭介は、情人になることは利害関係(職を得る目的)を優先しての決断だった。とはいえ、一線いっせんを越えてみなければ、生理的葛藤は払拭ふっしょく不可能である。
(精神的なつながりも大事だろうけど、カラダの相性あいしょうは実際にためさなければ、わからないもんな……)
 恭介は、王子の好意を独占する自信を持てずにいたが、共寝の件は前向きに考えていた。
(オレも、領主ばかりを非難できねーな。すっかりジルヴァンに欲情するカラダになっちまってるぜ……)
 下半身がムラムラしてきた恭介は、ジルに気づかれないよう昴揚こうようを落ちつかせた。

「キョースケよ。おれ、、の用事は、あすですべて終わる予定だから、明後日あさっての午前中は、ふたりで町に出かけようではないか。」
 ジルは、ときどき一人称いちにんしょうが“おれ”になる。恭介は妙な気分になるが、ふしぎな魅力を放つオッドアイの双瞳ひとみに見つめられると、そんな事柄ことはどうでもよくなった。
「ああ、そうしよう。オレも土産物みやげを買いに行きたかったんだ。」
 ザイールやボルグ、それとアミィへの手土産てみやげを買う必要があるため、ジルの提案に乗った。
「夜は、北の天文台てんもんだいに寄って、北斗七星グランシャリオを観てから帰ることにしよう。」
 領主から得た情報を語るジルは、嬉しそうに笑う。しばらくの間、平穏な時間ときが流れた。
(城に戻ったら、また、当分は会えなくなるのか? せめてジルヴァンが王子、、でなけりゃ、もっと恋人同士らしい付き合い方ができたのに……)
 恭介はおのれの身分を、初めて残念に思った。今更ながら、領主の言葉が脳裏に引っ掛かる。
(ジルヴァンを支えてやるのは、たぶん、無理な話だ。ずっとそばに居られるわけじゃないし、金銭面で勝てるはずがない。相手は王族だぞ? この先、オレはジルヴァンに何を与えてやれるンだろうか……)
 
 ジルは未婚男士で受け身につき、情人として存在するだけで意義いぎは充分あった。だが、恭介は、たんなる閨事ねやごとの相手として選ばれたつもりはない。好きなひとのためにできることはないか、真剣に考えはじめた。
 
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