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第 56 話
しおりを挟む洋館の広間では、夜遅くまで人が集まって、活気にあふれていた。恭介は満腹になった後、壁際へ寄り、ジルのようすだけを注視した。領主の男は、室外に広く張りだした露台へ移動して、王子の肩を抱き寄せている。夜空を見あげ、星の話を聞かせているようだ。
(ったく、いちいち気に入らねぇ野郎だな。その手の動きは余計だろーが)
肩を抱く手は、ちゃっかり下降してゆき、現在は腰の下(ほぼ尻)に添えられている。ただでさえ、領主にはジルを酔わせて半裸にした前科がある。恭介としては、無抵抗にして襲う行為は赦し難く、同時に、悔しい気持ちになった。
(……案外、オレのほうが嫉妬深いのかもな)
格好悪い思考をめぐらせた恭介は、いったん深呼吸をして気分を落ちつかせた。その時、こちらを振り向いたジルと目が合った。合図である。恭介は小さく頷き、ふたりのすぐ近くまで歩み寄った。
「なんだ? そなたは仕立て屋であろう。我々の邪魔をするとは、けしからん。」
「領主殿よ、この男は仕立て屋ではない。あの時は吾の都合により虚言を申したまで。誠に失礼した。心より詫びよう。」
「むむっ、そうであったか。では、こちらの者はいったい……、」
領主から不審に思われても仕方がない状況につき、恭介はジルに云われたとおり、事実をそのまま打ち明けた。
「初めまして。ご挨拶が遅れました。オレは第6王子の情人で、名を、石川恭介と申します。」
「今、なんと? 情人っ!?」
領主は驚愕した。その言葉の意味と役割を理解しているようで、すぐに怒りの表情へと変わる。そして、いきなり恭介の胸倉を掴んだ。
「そたなが情人だと? こんな凡庸な男にジルヴァン殿は肌を許したと云うのか?」
(凡庸で悪かったな。生憎、共寝の件なら、まだ未遂だよ)
「領主殿、吾の愛人に乱暴はやめよ!」
(おい、そりゃ、火に油だ。ジルヴァン)
冷静さを欠いた領主は、恭介を擁護するジルを押し退けて、咽喉元を指で圧迫してきた。なんとか呼吸は可能だが、領主の爪が皮膚に喰い込んで血が滲む。
「……痛ッ、」
恭介が顔をしかめると、領主は嫉妬心をあらわにして口撃すら始めた。
「そなたは、真にふさわしい存在なのか? このわたくし以上の財産と名誉を保持しているのか? そなたはジルヴァン殿に何を与えてやれる? 申してみよ!」
「領主殿、キョースケを責めるでない。手を離されよ!」
ムキになって加減を忘れた領主の手は、恭介の首を絞めあげていた。ジルの声でハッと我に返り、自らを弁明する。
「これは、すまぬ! わたくしとしたことが、なんたる惨事を招いたことか。ご無事であるか!?」
「ごほっ、ごほっ、……ええ、生きてますよ。」
領主は口先だけで謝罪し、乱れた呼吸を整える恭介を、端者(身分が低い者)として軽蔑のまなざしを向けてくる。
「……オレだって、ジルヴァンにふさわしい男だとは思っていません。領主の云うとおり、オレはただの民間人で、そのくせ貯金もゼロです。」
「では、貧乏人ごときが、なぜ、そのような身装をしているのだ。」
「うん? 燕尾服なら、ジルヴァンに用意してもらいました。」
「愚かしいものだ。おまえが情人とは信じがたく、嘆かわしい。」
領主は、おまえ呼ばわりで定着したようだ。
「おまえは、ジルヴァン殿を支えることができているのか。何もかも、相手のほうが格上だろうに。」
恭介は見栄を張るつもりはないが、返す言葉を考えてみた。しかし、何も浮かばなかった。代わりに、ジルが文句をつける。
「領主殿よ。そなたは勘違いをしておる。キョースケほどデキる男は、そうはおるまい。なにせ数字に明るく、城では事務内官として働いておるのだ。コスモポリテスの財政を知り尽くす男だぞ。」
(ん? 待て待て。知り尽くすとは大袈裟な表現だ。せいぜい、計算がそこそこ得意なレベルだぞ)
「それに、キョースケは面構えが良い。体つきも良い。背も高い。声も悪くない。髪型は……少し変わっているが、黒髪なのは、めずらしかろう!」
(あんまり褒めてくれるなよ。オレの立場を考えてくれ……)
恭介の前で身を挺する王子を見た領主は、ひどく落胆した。
「なんと云うことだ。これは夢ではなかろうか。わたくしの情熱を受け入れぬつもりか、レ・ジルヴァン殿よ。」
「すまぬ、領主殿。そなたからの文に返事をせずにいたのは、恋愛の対象ではないという意味だったのだ。吾にはキョースケがいる。この者が、吾に与えるものは少なくない。どうか、身を引いてもらえぬか。」
領主は口唇を噛みしめて肩を落とし、広間で踊る貴族たちの中へ姿を消した。
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