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第 55 話 〈せめぎ合う誓い〉
しおりを挟む夜会服とは、社交ダンスなどでよく見る燕尾服のことである。上衣とネクタイとジャケット、それにズボンと革靴が荷物の中に用意されていた。
(……下着は、ないのか。股がスースーするのにも慣れてきたけどよ。やっぱり、人前となると、どうにも落ちつかねぇんだよな)
コスモポリテスは年間を通じて温暖な土地柄につき、肌着がなくても風邪を引く者はいない。気候が関係しているのかは不明だが、恭介は着替えをすませると、無意識にため息を吐いた。
暇を持て余す武官たちを小屋に残して、ひとりで洋館に向かう。腕時計で時刻を確認すると、17時半を過ぎていた。広間のほうが賑やかである。ジルは、玄関ホールに立っていた。
「来たか、キョースケ。」
第6王子は、派手な金糸を使った織物を着ていた。胸もとに、大鳥が翼をひろげて飛びたつ瞬間が刺繍されている。
(……そう云えば、城の庭園にある石像もデカイ鳥だったっけ。コスモポリテスの象徴なのか?)
恭介はまだ、知らないことだらけであったが、コスモポリテスを出身地だと思うようにしていた。
「キョースケ、付添人らしく吾の手を引いて送り届けよ。」
「了解。」
差しだされた左手をとり、王子の背面に腕をまわす。
「こうして歩くと、お姫様と護衛隊の騎士みたいだな。」
「吾は姫君ではないぞ。」
「たとえ話だよ。」
恭介はジルの指先が小さく慄えているのに気づき、あまり緊張感を高めないよう、言葉を選んで会話した。
「くれぐれも、酒は呑みすぎるなよ?」
「わかっておる。キョースケこそ、吾以外の誘いを受けて、勝手に踊ってはならぬぞ。」
「ダンスの心配なら無用だぜ。オレは1ミリも踊ったことねーし、相手に関係なく、誘われても断るよ。」
「貴様は、吾とも踊らないつもりなのか。」
「うん? そうだな。ジルヴァンに恥をかかせたくないしな。」
「それほどまでに悲惨なのか。」
「へっぴり腰だよ。」
「へっぴり……?」
言葉の意味を理解できず、変な顔をする王子を見て、恭介は苦笑した。ふたりきりの時は子どもみたいな態度をとるものの、社交場ではキリッとした真顔に見えるため、王子としての品格は意識しているらしい。
(それでも、すげぇ危なっかしいンだよな)
恭介はジルの首筋に視線を落とし、衣装の下に隠された生身の肌を思い浮かべた。
(近くで見ると、華奢だしよ……)
ジルの本来の体つきは、ふだんから派手な格好をしているため見落としガチだった。
「おぉっ、レ・ジルヴァン殿、なんとも美しい姿なり!」
広間に到着すると、領主に招待された貴族たちが、それぞれに満喫していた。壇上に立つ声楽家が中低域の渋い声を響かせている。
「くらやみのなか~、点く灯火は、かがやく肌を照らしだす~。気高い女の、そびえる山のような乳房が、いちばんいい~。白いシーツの上で、男はくるくるまわる~。永久の夜明け~。男と女は快楽の嵐のなかにいる~。」
(悪趣味な歌だな……)
恭介は眉をひそめたが、参加者の多くは好き勝手に騒いでおり、歌詞の内容にまで気を留めていない。
(あえて男女の性交渉シーンを歌わせるのは、そこに領主の意図があるからだろう。公共の場で、自分は健全だとアピールしてるつもりか? こんな演出で、オレの耳も目も欺けねぇからな)
領主の男は、恭介の手からジルを引き取ると、王子専用の豪華な料理が並ぶテーブルへ移動した。
(さて、あとはジルヴァンの合図を待つだけだし、オレも料理に舌鼓を打つとするか)
立食式につき、恭介は楕円の皿を手にすると、テーブルクロスの上に並ぶ軽食を盛りつけた。
(うおっ、どれもうめぇ!)
恭介は、フォークを口へ運ぶ手が止まらない。魚介類や新鮮な野菜にチーズやソースをかけたものが多く、薄切りにして焼いた肉料理も置いてあった。食事に夢中になっていると、背後から声をかけられた。
「よろしければ、一緒に踊ってくださいませんか?」
振り向くと、優美な仕立てものに身を包んだ女性が立っていた。
(すっげぇ巨乳……)
大きく膨らんだ胸もとに、つい視線が落ちる。恭介は邪な考えを捨て、首を横に振った。
「申し訳ない。オレは、あちらの第6王子様の付き添え役につき、踊ることはできません。」
「あら、残念ですわ。素敵な紳士であられますのに、」
「とんでもない。オレなんか、たいした人間ではございません。」
「まぁ、ご謙遜かしら? 今いちど、そのお姿を鏡の前でご覧になって。」
女性は悲しげな表情をすると、その場から去ってゆく。恭介の風采は端正に見えたが、本人がその容姿を正しく評価していなかった。
* * * * * *
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