恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
56 / 364

第 55 話 〈せめぎ合う誓い〉

しおりを挟む

 夜会服とは、社交ダンスなどでよく見る燕尾服タキシードのことである。上衣シャツとネクタイとジャケット、それにズボンと革靴が荷物の中に用意されていた。
(……下着パンツは、ないのか。股がスースーするのにも慣れてきたけどよ。やっぱり、人前ひとまえとなると、どうにも落ちつかねぇんだよな)
 コスモポリテスは年間をつうじて温暖おんだん土地柄とちがらにつき、肌着がなくても風邪を引く者はいない。気候が関係しているのかは不明だが、恭介は着替えをすませると、無意識にため息を吐いた。

 ひまを持て余す武官たちを小屋に残して、ひとりで洋館に向かう。腕時計で時刻を確認すると、17時半を過ぎていた。広間のほうがにぎやかである。ジルは、玄関ホールに立っていた。
「来たか、キョースケ。」
 第6王子は、派手な金糸きんしを使った織物を着ていた。胸もとに、大鳥オオトリが翼をひろげて飛びたつ瞬間が刺繍されている。
(……そう云えば、城の庭園にある石像もデカイ鳥だったっけ。コスモポリテスの象徴シンボルなのか?)
 恭介はまだ、知らないことだらけであったが、コスモポリテスを出身地じもとだと思うようにしていた。
「キョースケ、付添人らしくわれの手を引いて送り届けよ。」
「了解。」
 差しだされた左手をとり、王子の背面に腕をまわす。
「こうして歩くと、お姫様と護衛隊の騎士みたいだな。」
「吾は姫君ひめではないぞ。」
「たとえ話だよ。」
 恭介はジルの指先が小さくふるえているのに気づき、あまり緊張感を高めないよう、言葉を選んで会話した。
「くれぐれも、酒は呑みすぎるなよ?」
「わかっておる。キョースケこそ、吾以外の誘いを受けて、勝手に踊ってはならぬぞ。」
「ダンスの心配なら無用だぜ。オレは1ミリも踊ったことねーし、相手に関係なく、誘われても断るよ。」
貴様きさまは、吾とも踊らないつもりなのか。」
「うん? そうだな。ジルヴァンに恥をかかせたくないしな。」
「それほどまでに悲惨なのか。」
へっぴり腰、、、、、だよ。」
「へっぴり……?」
 言葉の意味を理解できず、変な顔をする王子を見て、恭介は苦笑した。ふたりきりの時は子どもみたいな態度をとるものの、社交場ではキリッとした真顔まがおに見えるため、王子としての品格は意識しているらしい。
(それでも、すげぇ危なっかしいンだよな)
 恭介はジルの首筋に視線を落とし、衣装の下に隠された生身なまみの肌を思い浮かべた。
(近くで見ると、華奢だしよ……)
 ジルの本来の体つきは、ふだんから派手な格好かっこうをしているため見落としガチだった。

「おぉっ、レ・ジルヴァン殿、なんとも美しい姿なり!」
 広間に到着すると、領主に招待された貴族たちが、それぞれに満喫まんきつしていた。壇上に立つ声楽家が中低域の渋い声バリトンボイスを響かせている。 

「くらやみのなか~、灯火ともしびは、かがやく肌を照らしだす~。気高けだかい女の、そびえる山のような乳房が、いちばんいい~。白いシーツの上で、男はくるくるまわる~。永久とわ夜明よあけ~。男と女は快楽の嵐のなかにいる~。」
 
(悪趣味な歌だな……)
 恭介は眉をひそめたが、参加者の多くは好き勝手にさわいでおり、歌詞の内容にまで気をめていない。
(あえて男女の性交渉セックスシーンを歌わせるのは、そこに領主の意図があるからだろう。公共の場で、自分は健全だとアピールしてるつもりか? こんな演出で、オレの耳も目もあざむけねぇからな)
 領主の男は、恭介の手からジルを引き取ると、王子専用の豪華な料理が並ぶテーブルへ移動した。
(さて、あとはジルヴァンの合図を待つだけだし、オレも料理に舌鼓したつづみを打つとするか)
 立食式につき、恭介は楕円だえんの皿を手にすると、テーブルクロスの上に並ぶ軽食オードブルを盛りつけた。
(うおっ、どれもうめぇ!)
 恭介は、フォークを口へ運ぶ手が止まらない。魚介類や新鮮な野菜にチーズやソースをかけたものが多く、薄切りにして焼いた肉料理も置いてあった。食事に夢中になっていると、背後から声をかけられた。
「よろしければ、一緒に踊ってくださいませんか?」
 振り向くと、優美な仕立てものに身をつつんだ女性が立っていた。
(すっげぇ巨乳……)
 大きくふくらんだ胸もとに、つい視線が落ちる。恭介はよこしまな考えを捨て、首を横に振った。
「申し訳ない。オレは、あちらの第6王子様の付き添え役につき、踊ることはできません。」
「あら、残念ですわ。素敵な紳士であられますのに、」
「とんでもない。オレなんか、たいした人間ものではございません。」
「まぁ、ご謙遜けんそんかしら? 今いちど、そのお姿を鏡の前でごらんになって。」
 女性は悲しげな表情をすると、その場から去ってゆく。恭介の風采ふうさいは端正に見えたが、本人がその容姿を正しく評価していなかった。
   
     * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

ペット彼氏のエチエチ調教劇場🖤

天災
BL
 とにかくエロいです。

先生を誰が先に孕ませるかゲーム

及川雨音
BL
複数ショタ×おっぱい有りマッチョ両性具有先生総受け おっぱいとおしりがデカいむちむちエロボディー! 強姦凌辱調教洗脳脅迫誘導だけど愛があるから大丈夫! ヤンデレ気味なショタたちに毎日日替わりで犯されます! 【書いていくうちに注意事項変わりますので、確認してからお読みいただくよう、お願い致します】 *先生の肉体は淫乱なのですぐ従順になります。 *淫語強要されます。 *複数プレイ多め、基本は一対一です。ギャラリーがいるのはプレイの一環です。ある意味チームプレイです。 *詳しい女性器・生理描写が有ります。 *ゴミを漁る、トイレ盗撮、ハッキングなど犯罪とストーカー行為をナチュラルにしています。 *相手により小スカ、飲尿、おもらし、強制放尿有ります。 *相手により赤ちゃんプレイ、授乳プレイ有ります。 *パイズリ有り。 *オモチャ、拘束器具、クスコ、尿道カテーテル、緊縛、口枷、吸引機、貞操帯もどき使います。 *相手によりフィストファック有ります。 *集団ぶっかけ有り。 *ごく一般的な行動でも攻めにとってはNTRだと感じるシーン有ります。 *二穴責め有り *金玉舐め有り *潮吹き有り

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

男の子の雌化♡

クレアンの物書き
BL
いろんな男の子達が従順なメス男子に変わっちゃうお話です!

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

処理中です...