恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
54 / 364

第 53 話

しおりを挟む

 事件が起きたのは、舞踏会前日だった。

 現在、恭介は第6王子ジルヴァンの供人として、アルミナ自治領を訪問していた。滞在期間は5泊6日ごはくむいかで、本日は2日目ふつかめである。ジルは領主の邸宅で豪勢な寝室を用意されたが、恭介や護衛の武官たちは、洋館の敷地内に建つ木造の小屋こやに宿泊中だ。小屋こやといっても広々とした床面積があり、来客用に整理整頓され、簡易的な家具や寝台ベッドが設置されている。ちなみに、女官たちの部屋はジルの隣室である。

(……なんか、オレたちの扱いに落差がねぇか?)
 
 恭介も武官も力者ろくしゃも、いちおう王子の従者である。男を(わざと)ジルから遠ざける魂胆こんたんは、明白めいはくだ。独占欲のあらわれか、おそらく嫉妬心によるものだと思われた。
(今ごろ、ジルヴァンはひとりで居るんだよな……)
 昨夜は心労しんろうのせいか、ぐっすり眠り込んでしまった恭介だが、領主の邸宅に身を寄せるジルのようすが気になった。お手洗いトイレに向かうフリをして小屋から出ると、暗い庭を横切って、それとなく邸宅の窓を見あげた。さすがに2階までは確認できないが、洋燈ランプともる部屋を見てまわると、布帛カーテンのわずかな隙間すきまからジルの寝室を発見した。
(ジルヴァンは無事みたいだな……)
 洋風の寝巻ねまきに着替えたあとのジルが、寝台ベッドに腰かけている。
(薄着だな。少し無用心ぶようじんじゃないか?)
 長袖ながそでのワンピースのような寝巻だが、布地が薄いため、腕や足が透けて見えている。窓の外から寝室をうかがう自分のほうが完全に不審者だが、恭介ののぞき見、、、、は、しばらく続く。
 ジルヴァンの安全を見まもっていると、よもやの領主の登場である。バスローブみたいな服を着た領主は、盆に果実酒を乗せて部屋にはいってくる。
(うん? こんな時間から酒をわすのかよ)
 
 テーブルについたふたりは、名物の高級ブドウを使った果実酒を呑みはじめた。ジルは事前にたのしみだと話すだけあり、嬉しそうにグラスを口へ運ぶ。アッという間に、1本呑み干した。
(おいおい、そんなに大量摂取して大丈夫かよ)
 恭介は心配になり、思わず窓に顔を近づけた。あんじょう、ジルは意識をうしなうほど酔いがまわっている。領主の男は、項垂うなだれて動かなくなった王子を抱きあげると、寝台の上に横たおらせた。そのまま洋燈の火を消して出ていくのであれば、なにも問題はない。だが、そうはいかない。領主の男は寝台の端に腰をかけると、ジルの髪を撫でたり、頬に指を這わせたりしている。

(……マズイな。あいつ、ジルヴァンを酔わせるのが目的だったンじゃねーだろうな)
 
 ふたりきりの寝室は、あやしい雰囲気となり、恭介は野暮やぼ真似まね余儀よぎなくされた。隣室の窓を軽く叩き、女官に鍵を開けてもらうと、邸宅に忍び込む。
「ああ、悪いな。ちょっとジルヴァンに内緒の用事があって、ここから失礼するよ。」
 女官たちもすでに寝巻の格好かっこうをしており、恭介が窓枠を乗り越えてくると「きゃっ」と小さく声をあげた。なるべく彼女たちと目を合わせないように退室すると、王子の寝室の前に立つ。いきなり開けては失礼かと思い、コンコンと合図する。室内に領主がいることはわかっていたが、返事はない。
(……なんだよ。早くでろよ)
 2、3回ノックをくり返しても応答がないため、恭介はドアノブに手をかけて、そっとまわした。すると、室内にいたはずの領主の姿はなく、先程まで恭介がのぞき見していた窓が、全開にひらかれていた。布帛カーテンが夜風に揺れている。
(あの野郎、窓から脱走しやがったな!)
 恭介はドアを閉めて室内へ踏み込むと、窓に鍵を掛けた。寝台ベッドの上で安眠モードのジルは、半裸にされていた。

(なんつう、警戒心のなさ、、だよ。ジルヴァン、おまえは王子だろ。あんな男に夜這よばいを赦したら、一生いっしょうの汚点にならないか?)
 
 恭介は寝台に歩み寄り、寝息をたてる王子を見おろした。
(子どもみたいな寝顔だな……)
 胸の前が大きくはだけているため、ほんの少し悪戯イタズラをしたくなる。薄桃色の乳首に指で触れると、ジルヴァンは「んっ」と、気息をらした。
(これくらいで感じるのか?)
 恭介は、はだけた寝巻のえりを合わせると、王子のカラダに掛け布団をかぶせた。テーブルの上に、果実酒が置いてある。ジルがもちいたグラスを手に取り、2本目をぐ。

(うめぇな。……ってか、アルコール度数どすういつくだよ!?)
 
 たったひと口で、咽喉のどの奥が熱くなった。二十歳のジルヴァンには、刺激が強すぎると思えた。その後、先に起床する女官たちが朝の身仕度みじたくを終えて出てくるまで、恭介は寝室の前で徹夜てつやした。
 
      * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...