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第 50 話
しおりを挟む恭介が寝間に足を運んだ時、ジルヴァンは裸身で横たわろうとしていた。
「邪魔するぜ。」
「キ、キョースケ!? なにゆえ!?」
アルミナ自治領への出発をあすに控えた第6王子は、突然の来訪者に驚きを隠せない。脱いだ衣服を再び羽織ると、無粋な現れ方をした恭介を振り向いた。室内には蝋燭の火が灯されていたが、時刻は真夜中につき全体的に薄暗い。かろうじて、ジルの姿を視野に捉えた恭介は、迷うことなく歩み寄った。
「キョースケ、なんなのだ、このような夜更けに……、」
「就寝前に間に合わなくて悪い。オレのほうも忙しくてさ。少しだけ話せるか?」
「う、うむ、赦す。」
5日分の作業指示を書き出した紙片を執務室の長机に残し、情人の認可証を使って直接ジルを訪ねた恭介は、女官のひとりと役目を代わり、アルミナへ同行する旨を伝えた。
「そうか、それは構わぬ。吾とて、貴様と共に行けるのは愉しみが増えるというものだ。」
「その口ぶりだと、いちばんのタノシミは他にありそうだな。」
「むろん、それはブトウ畑である。3年前に訪ねた時、吾は17歳だったゆえ、名物の果実酒をひと口も呑むことができず、非常に悔しい思いをしたのだ。次こそは、たらふく呑んでやろうと決めていた。」
(ってことは、コスモポリテスでも飲酒は二十歳になってからか。ライン引きは日本と同じだな……)
日々の暮らしの中で、それとなく王国の情報は収集されてゆく。もっとも、恭介のいちばんの関心は王子自身である。寝台に並んで腰をおろすと、互いの顔を見つめ合った。
「キョースケ、」
「なんだ?」
「……キスを。」
「了解。」
ジルに望まれるカタチで、恭介は軽く気息を合わせた。
(あんまり深入りすると、オレの男根が暴れそうだからな……)
恭介は、いつでもジルを抱くことができる健康なカラダを維持していたが、ふたりが寝台の上で愛し合う日は、もうしばらく先となる。
「それじゃ、あしたな。おやすみ。」
出発の時刻を聞きだした恭介は、それだけで退室しようとしたが、「待たれよ」と声がかかった。
「貴様は供人の衣装を持っているのか?」
「うん? ああ、そっか。さすがに内官布でついて行くわけにはいかないよな、」
「身だしなみは大事である。あすの朝までに用意させておこう。アミィから聞いたが、貴様は王宮の前に建つ関係者専用の住居で暮らしているそうだな。部屋の番号を、通路に待機する女官に知らせておくのだ。あすは、届けられた衣服を着てくるように。」
「了解。」
恭介は、ジルの頬にキスをするため顔を近づけたが、相手に先を越された。ジルはほっぺたにチュウをすると、「おやすみっ」と云って布団にくるまった。不意打ちを喰らった恭介は、
(あ、あぶねぇっ、勃つところじゃねーか!!)
下半身のけものが荒々しく覚醒めようとしたが、なんとか寸前で鎮めた。恭介の欲情を煽った張本人は、その顔を隠して寝たフリをしている。
(くそ……、小悪魔かよ……)
仮にも、ジルヴァンはこの国の王子である。恭介は忍耐を強いられた。
翌朝、鏡の前で寝グセを直す恭介の元へ、豪勢な衣装と着替えが届けられた。
「おはようございます。イシカワさまでしょうか?」
「え? いいえ。わたしはザイールと申しますが……、あの、これはいったい?」
「ああ、悪い、ザイール。オレの荷物だろうから受け取っておいてくれ、」
手が離せない恭介に代わり、大きな白い布袋を引き受けたザイールは「ごくろうさまです」と云って、配達人を見送った。
「キョースケさま、こちらの荷物は、なんですか?」
「外泊着だよ。きょうから5日間、仕事の都合でアルミナに行くことになったンだ。だから、帰りは6日後になると思う。よろしくな。」
「そうだったのですね。なんだか寂しくなりますが、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「ああ。ブドウ畑が有名なんだってな。土産に果実酒を買ってくるよ。」
「それは愉しみです。ありがとうございます。」
恭介に仄かな恋愛感情を抱くザイールは、出張の準備を急ぐ姿を見つめ、少し残念な気持ちになった。ザイールにとって、恭介とのふたり暮らしは切なくも平穏で、この生活が長く続けばいいのにと思っていた。
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