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第 48 話
しおりを挟むなりゆきで、ザイールとデュブリスに両脇を固められた恭介は、いくらか頭が混乱した。
(なんだこれ。なんでこうなった?)
両者は恭介をはさみ、睨み合ってしまう。
(いやいや、おかしいだろ。ふたりとも初対面なのに……)
少し前の記憶をさかのぼってみても、どこで歯車が狂ったのか思いつかない。原因はザイール側に芽生えた恭介への仄かな恋愛感情である。だが、すでに恭介は第6王子の情人につき、それは叶わぬ恋であった。その事実を知らないザイールは、恭介と親しげなデュブリス少年に、嫉妬している。ただでさえ、神聖な職に就く身であり、色事には疎かった。デュブリスに至っては、純粋に恭介との再会をよろこび、いくらか興奮状態に近い。
「キョースケさま、横髪を茶色く染められたのですね。とてもお似合いです!」
「これは、わたしが染めてあげたのですよ!」
「えっ、なんで神官殿が?」
「わたしは、キョースケさまとふたりで暮らしていますからね。」
「ええっ? 本当ですか!?」
「本当ですよ。」
「それは、またなぜ……、」
「なぜって、わたしの手違いで、キョースケさまを私奴にしてしまって、それで……、」
「え? なんですって?」
「で、ですから、それはっ、と、とにかく話せば長くなるんです!! わたしは、あなたよりもキョースケさまと親しい間柄ということです!」
ザイールの科白は、支離滅裂になりつつある。
「ふたりとも、落ちつけよ。」
恭介が控えめに云うと、さらにまとめにくい人物がこちらへ近づいてきた。
「あら~? キョウくんじゃな~い、こんなところで会うなんて偶然~。」
ダメな上司の登場により、余計に場の雰囲気が、ややこしくなった。
「アミィさん、仕事はどうしたんですか。」
恭介が訊ねると、アミィはザイールとデュブリスにかまわず、なぜか恭介の首筋に、ひしっ、と抱きついた。それを見たザイールは呆気に取られ、デュブリスも目を丸くした。
(こんどはアミィかよっ!)
異世界でモテ期が到来したかのような恭介は、やたら同性に好意と信頼を持たれていた。アミィは恭介の胸板に、すりすりと頬を擦りつけて嘆いた。
「キョウく~ん、聞いて~。ジルさまってば、ひどいのよぅ。あたしが何をしたって云うのよぉ!」
(ジルヴァンがどうしたって?)
恭介は一瞬眉をひそめたが、ザイールとデュブリスから、じっ、と見つめられ、ハッとした。
(あんまり、王子の話はふたりに聞かせないほうがいいンじゃねーの?)
「ア、アミィさん、とりあえず腕を離してもらって、いいですか?」
「やだやだ、やだ~っ。キョウくん、あたしを助けて!」
「ぐはっ!?」
アミィは、むっちりとした肉感の腕に力を込め、恭介の胴体をきつく締めあげた。
(ふつうに痛えわ! 莫迦力め!!)
なにやら不穏な空気が流れる中、恭介に助け船が来た。
「おぅ、デュブリス。そんなところで何やってんだ?」
「あっ、おじさん! こんにちは!」
デュブリスに“おじさん”と呼ばれた男は司書官の姿をしており、恭介を遠目から見ると、「おや。キミは、このあいだの内官か?」と、つぶやいた。
「すみません、キョースケさま。ぼくはこれで失礼します。あ、あの、きょうはお会いできて嬉しかったです!」
「ああ、またな。」
少年は恭介の言葉に満面の笑みを浮かべ、おじさんのほうへ駆けてゆく。王立図書館の出入口に通じる広場に残された恭介とザイールは、合流したアミィの3人で昼食をすることになった。
(ちょっと待て。これって予定外出費じゃねーか)
本来ならば、ザイールにだけ食事を奢る予定だった恭介は、城下町の菜店で3人分の会計をすませた。また、食事の席で意気投合した同い歳のザイールとアミィは、楽しそうに町を歩きだす。恭介はあとからついて行くカタチとなったが、ザイールの表情に明るさがもどり、内心ホッとした。
(悩みがありそうだったけど、まぁ、いいか……)
恭介はふたりの買い物に付き合って、気づけば両手に紙袋をさげていた。
「キョウくんがいてくれて、助かるわ~。」
「キョースケさま、荷物は重たくありませんか?」
背後を振り向くふたりに、恭介は「ああ、これくらい余裕だよ」と応じながら、脳裏でジルヴァンを気にかけた。
(……さっき、アミィは、オレに何を云いかけたンだ?)
恭介は、コスモポリテスでそれなりに平和な休日を過ごしていたが、その頃、アルミナ自治領では第6王子に関する件で、動きがあった。
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