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第 47 話
しおりを挟む「もういちど、同じ書物を借りていきます。」
王立図書館の受付で、世界史を返却した恭介は、再び貸借の手続きをすませ、バッグの中に書物をしまった。肩ひもをかけて斜めにさげると、ずっしりと重たく感じた。
(実際に凶器並みの分厚さがあるけどな……)
せっかく王立図書館まで来たので、今回こそ館内を見てまわりたいところだが、町でナンパ男に出喰わしたあとからザイールのようすが妙につき、外の腰掛けへ引き返した。
「ザイール、」
ぼんやり座っている青年を呼びかけても、反応は得られない。思いつめたような表情にも見えるため、恭介は心配した。
「ザイール、気分でも悪いのか。」
恭介は隣には座らず、ザイールの正面でしゃがむと、うつ向く顔をのぞき込んだ。チンチン人形専門店では明るい表情をしていたが、現在はひどく青ざめていた。
(……エロおやじに手を引かれたのが、そんなにショックだったのか?)
もっと早い段階で割って入るべきだったかと罪悪感に捉われたが、ザイールはニコッと無理やり笑って見せた。
「すみません。ボーッとしてました。」
「気になることでもあるのか。」
「いいえ、べつに。」
「正直に話してみろよ。」
「本当に大丈夫ですから、」
「ふうん? それなら昼食でも食いに行くか。」
事務内官として初任給が支払われたばかりにつき、恭介の懐は、それなりに余裕があった。国が強制的に徴収する税金のシステムは、いわゆる間接税が基本で、国税として課せられる内容は日本とだいぶ異なっていた。恭介は日々の業務の中で、コスモポリテスの税制をアミィから詳しく学んだ。
「どこか、うまい店があったら教えてくれよ。オレが奢るからさ。」
「ですが、来たばかりではありませんか。」
「図書館へは、貸借の延長をしに来ただけだよ。ほら、行こうぜ。立てるか、」
恭介が手を差しのべると、ザイールは恥ずかしそうに首を振る。
「すみません、キョースケさま。」
「なんで謝るンだ?」
「だって、先程から、わたしに気を遣ってくださるから申し訳なくて……、」
「なんだ、そんなことか。」
恭介が苦笑すると、にわかにザイールの頬が赤く染まる。内気なザイールは、恭介の男らしいふるまいを過剰に意識して、途惑っていた。
「……わたしは、こんなステキな男性を同居させていたのですね。なんだか、急に胸がドキドキして、すごく苦しいです。」
王立図書館を出入りする人々の中に見知った顔を発見した恭介は、ザイールの告白を聞き逃した。
「デュブリスくん?」
「キョースケさま!?」
こちらの姿に気づいた少年は、すぐさま駆け寄ってくると、勢いよく恭介の胴体に、ガシッと抱きついた。
「うおっと、なんだなんだ?」
「またお会いできるなんて光栄です!」
「そ、そうなのか?」
デュブリスにしがみつかれる恭介を見たザイールは、頬を膨らませ、「ちょっと!」と口を挟んだ。
「なんですか、あなたはっ、」
「ぼくは、漁師の息子ですが、あなたこそ、どちらさまですか?」
「わたしは神殿の神官、ザイール=チョコチップ=ローズロールと云います!」
「神官殿でしたか。ぼくは、デュブリス=デューイ=ディーフェーンです。よろしくお願いします。」
「よろしくもなにもありません。あなたは今すぐ、キョースケさまから離れなさい!」
「えっ? ああっ、すみませんっ。嬉しくてつい、ぼくは内官様に、なんて失礼なことを……っ、」
本日の恭介は一張羅姿だが、デュブリスは民間人につき、城務めをする官吏のほうが身分は高い。ザイールに注意されたデュブリスは、礼儀をわきまえて謝罪する。
「オレは、たいして偉くもない人間だから、そんなふうに畏まる必要ないぜ。」
恭介は自然と口からでたが、即座に否定された。
「何を申されますか! キョースケさまは立派なモノをお持ちではありませんか! わたしは、この目ではっきり見ました!!」
と、ザイール。デュブリスが続く。
「キョースケさまは、とてもカッコイイ方だと思います! ぼくは、官吏職の方々を図書館でよく見かけますが、気取らずにお声をかけてくださったのは、キョースケさまくらいです!!」
(うん? なんだ、この状況は……)
両者は声高に絶賛してくるが、ザイールの褒め科白は、あきらかに恭介の男性器につき、返す言葉がなかった。
* * * * * *
※操作した覚えがないのに今話だけ非公開設定に変更されていてびっくり。あわてて再度[公開]しました。更新日の表示がおかしくなっていますが、本文の手直しなどは一切しておりません。たいへん失礼いたしました。
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