恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 46 話 〈異世界の人たち〉

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 恭介は仕事休みの日、神殿プロメッサに奉職するザイールと共に城下町へやって来た。王立図書館で借りた書物の返却期限が迫り、いちど返しに行く必要があった。

(あれから、まだ半分も読めてねーんだよな)
 
 以前、アミィと王立図書館へ訪れたさいは、自身の黒髪が原因で思うように動けず、そこに居合いあわせたデュブリス少年にかくまわれていた。
(親切な子だったな。せっかく選んでくれたのに、ごめんな……)
 とはいえ、いったん返却したあとに、もういちど借りればいい。デュブリスが選択チョイスしてくれた世界史の書物は、充実した内容につき、きちんと最後まで読むべきだと思えた。いっぽうザイールは、恭介と偶然休みが一致いっちして、城下町に用事があるらしく、一緒に出かけることになった。
 ザイールは25歳(アミィとおなどし)の青年で、恭介より背が低く、濃灰色スレートグレイの長めの髪を垂らしている。いつもは束ねていたが、休みの日は無造作むぞうさに垂らしたままでいた。色白いろじろで大きな丸眼鏡まるめがねをかけており、地面につきそうなほど裾がある衣服ころもを着ているため、パッと見は、女性とまちがわれそうな格好かっこうをしている。
(……まぁ、たいして変わらないか)
 ザイールの属性は受け身、、、である。いちどだけ口争くちあらそいをした時に、未経験オトメだとも打ち明けている。〔第14話参照〕
 恭介は、いくぶん接し方に悩んでしまったが、せまい部屋にふたりで暮らすため、下手に意識する真似はやめにした。

「すみません。わたしはここで下車しますが、キョースケさまは、お先に図書館へ向かわれてください。」
「いや、オレも降りるよ。買い物をするなら、荷物持にもつもちがいたほうがいいだろ。」
 恭介はザイールと荷馬車にばしゃから降り、肩を並べて町の雑貨屋まで足を運んだ。その後、自らの発言を絶望的に後悔した。

(なんつうモン、持たせる気だよ!?)

 あろうことか、ザイールが訪れた場所は“チンチン人形ドール専門店”である。店内の商品棚には、男性器をした雑貨がずらりと並ぶ。見れば、女性客もおり、恭介は視線がおよいでしまった。ザイールはかよい慣れたようすで新商品の棚に近づくと、恭介を振り向いた。
「キョースケさま、こちらのアクセサリーはアルトゥルに似合うと思いますか?」 
 アルトゥルとは40センチほどのぬいぐるみ、、、、、で、ザイール愛用のチンチン人形の名前である。
(頼むから、オレに聞かないでくれ……)
「こんなもの、どうやって使うんだ。」
 ザイールが手にしたものは、輪ゴムのような見た目で、小さいタグが付いている。用途が不明につきたずねたが、回答にドン引きした。
「これは、アルトゥルのタマタマ、、、、に付けるネームタグですよ。」
 タマタマとは、云うまでもなく男性器の一部で、睾丸こうがんと呼ばれる生殖腺である。むろん、チンチン人形にもタマタマが再現されている。
(……勘弁かんべんしてくれよ)
 恭介は頭がクラクラしてきたが、ザイールがどれにしようか迷うため、適当な花柄はながらを差しだした。
「ステキですね。ありがとうございます。これにします。」
 ザイールは笑顔で受け取り、会計をすませて戻ってくる。店をでる前に、チンチン人形の購入をすすめられた恭介は、丁重ていちょうにお断りした。
 
 ザイールはネームタグを早くアルトゥルに付けてあげたいと云って、めずらしく顔色が明るい。ふだんの感情表現はとぼしいため、恭介は苦笑した。来た道を戻り、ロバのような動物が引く荷馬車を待っていると、なにやら人相にんそうのよろしくない男がザイールに声をかけた。
「いよぅ、あんちゃん、、、、、、かわいい顔しているね。どうだい? おれと、そこらへんでお茶でもしようや。」
 頭の悪そうなさそ文句もんくである。下心したごころ丸出まるだしにつき、誰もなびかないだろうと恭介はあきれたが、ザイールは対処できずに困惑した。

(おい、ザイール。相手をよく見ろ。ただのエロおやじだぞ)
 
 恭介は内心突っ込みを入れつつ、無理やり手を引こうとする男の腕を掴むと、軽くひねりあげてから振りはらった。
「なんだぁ、おまえは? 邪魔するな!」
「そうはいくか。この子、、、はオレの連れなんだ。あんたに用はないから、さっさと消えろ。」
 きっぱり制されたナンパ男は、チッと舌打したうちをして、ふいっと居なくなる。

「ザイール、大丈夫かよ?」
「は、はい。大丈夫です。少しびっくりして……。ありがとうございました。」
 
 ザイールは深々ふかぶかと頭をさげるので、恭介は「どういたしまして」と返した。到着した荷馬車へ先にザイールを乗せて自分も続き、王立図書館までガタゴトと揺られた。

     * * * * * *
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