恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 45 話

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 思わぬところでジルと再会した恭介は、庭園の石像に腰をかけ、ふたりきりの貴重な時間を過ごした。
「ジルヴァン、いよ。」
 恭介が両腕をひろげて云うと、ジルは近づいて背を向けた。恭介は太腿のあいだにジルを座らせ、背後から脇の下へ腕をまわし、軽く抱き寄せた。
「……キョースケ、」
いやか?」
「そうではなく、ゆるすと云うつもりだったのだ。」
「もしかして、ジルヴァンの許可がないと、オレかられちゃマズイのか?」
「そんなことはない。貴様はわれのどこに触れてもかまわぬ男だ。」
「そいつは良かった。」
 恭介は笑顔で云う。抱き寄せたジルの背中と自分の胸板が密着しているため、相手の高鳴る心音を敏感にとらえることができた。ジルは心の底から恭介をいており、恭介も愛嬌あいきょうのある王子に恋心こいごころを持っていた。ふたりはすでに両想いの仲だが、肉体関係におよぶ機会はおとずれていない。ジルにとって恭介は初めての情人イロにつき、消極的になっている部分もある。
(……要するに、奥手おくてなんだよな。受け身ジルヴァンからすれば、オレに抱かれるには、かなり勇気がいるはずだ。……ハツモノなら余計にな)
 
 ジルは手足の力を抜いて恭介の腕に身をまかせ、まぶたをとじている。あまりにも無防備な姿だが、恭介は王子の体温を心地よく支えながら、いつかのクォーツ時計の礼を述べた。
「……貴様に必要だと思ったから、与えたまでだ。礼にはおよばぬ。」
「その気持ちが嬉しかったよ。」
「キョースケ……、」
「うん?」
「仕事は順調なのか?」
「うーん、まぁ、順調と云えば順調かな。人手が足りなくて毎日忙しいけどな。」
「ならば、集めてやってもよいぞ。」
「そんなこと、できるのか?」
「吾は王子だ。雑用係の女官にょかんなら、いくらでもおる。あすにでも手伝いに向かわせよう。」
「女官ね。事務作業とはいえ、女には骨が折れる仕事だぞ。」
「それほど大変なのか……、」
「キミが、オレの上司、、、、、をコキ使うのと同じくらいな。」
「アミィのことか。」
「あれでも、居ないよりは助かるからさ。」
「すまぬ、キョースケ。アミィは唯一ゆいいつ、男の側仕そばづかえゆえ、あの者にしか頼めぬ用事が多くなりガチなのだ。」
「そうなのか?」
「アミィは無欲むよくにつき、扱いやすい。他の男共おとこども野心やしんを合わせ持つゆえ、言動が不愉快きわまりなくて油断ならん。」
「……色々あるンだな。」
「あるに決まっておろう。この身は窮屈きゅうくつで、ほとほと嫌気がさしている。」
「ふうん? オレを情人にしておきながら、よく云うぜ。」
「それについては別件だ。誤解するでない!」
 ジルが肩越しに振り向くと、恭介はその口唇くちびるを奪った。ジルは一瞬おどろいて目を見ひらくが、拒むことなく従順に受け入れた。
「……んっ、キョースケ、」
 互いの舌をからめるうち、恭介の下半身は欲望に反応し、かすかに肥大した。
(やべぇな、オレ。欲求不満かよ……)
「……キョースケ、横髪よこがみを染めたのだな、」
「うん? あ、ああ。変か?」 
いな。問題ない。」
 ジルから熱心なまなざしで見つめられた恭介は、衣服ころもの下の肌に触れたいと思った。しかし、渡り廊下に数人の女官が姿を見せると、ジルはあわてて石像の裏へ隠れた。

王子ジル様~っ、」
王子ジル様~っ、どちらですか~、」

 第6王子は、いつものごとく、王室の慣例行事をっぱねていた。恭介は女官のひとりと目が合ったが、素知そしらぬフリをしてやり過ごす。ジルは顔をしかめ「鬱陶うっとうしい」と吐き捨てた。恭介は「何が?」と小声で問う。ジルは、女官が引き返して来ないか用心しつつ応じた。
「朝食後の顔見せから始まって、語学の勉強、たみ調しらべ、昼礼の国事こくじの勉強、夕刻の儀、活動内容の日誌付け、十日とうかにいちどの晩餐ばんさんに同席、賓客ひんきゃくがあれば衣装合わせ、会食かいしょく相席あいせき、ひと月ごとに、王室男士だんじによる五穀豊穣ごこくほうじょうの祭儀、季節の節目ふしめの感謝祭に出席、……それから、」
 ジルは、指折ゆびおかぞえながらしゃべっている。王子としての務めは多分野たぶんやに渡るらしい。ただし、正妻がいないため、そちら方面、、、、、の政務は除外されている。恭介は腕時計で時刻を確認すると、仕事へ戻る決断をした。いつまでも、恋人の時間を堪能たんのうしてはいられない。
「キョースケ、カラダを大事にするのだぞ。」
 恭介はジルの言葉にうなずくと、先に庭園をあとにした。

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