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第 40 話 〈まちがわない男〉
しおりを挟む盗賊により村から連れ去られたシリルだが、本人の意識とは関係なく発情の兆しがあらわれた。まず最初に気がついたひとりは、シリルを担ぐ男である。肩になにか柔らかいものが当たり、若い獣人の呼吸も乱れだす。
「おい、ちょっと待ってくれ。なんか、こいつのようすが変だ、」
そう云って立ちどまり、シリルのカラダを地面へおろした。残りのふたりも側までやってきて、内ひとりが怖いもの知らずの性格につき、シリルの肩から布を剥ぎ取った。途端に、盗賊3人「あ!?」と同時に叫ぶ。
「なんだ、こいつは!!」
「女だったのか?」
「いや、よく見ろよ。ついてるぞ!」
シリルの上半身は女体化していたが、股のあいだには男性器がついている。まさかの両性具有を手に入れた3人組は、その場で談議を始めた。
「こりゃあ、いい! なにかの書物で見たことがある。こいつは両性体の獣人にちがいない。下手すりゃ、高値で売れるぞ!」
「おいおい、いいのかよ、そんなことして。依頼主は獣人そのものを連れて来いって云ってたよな? どうせ手懐けるつもりだろうよ。」
「それなら、もう1匹捕まえに行けばいいだけの話だ。」
「ええーっ? またあそこまで行くのかよ。こっちはひとり殺られてるんだぞ!?」
盗賊のふたりが話し合う最中、もうひとりの男はシリルの呼吸を楽にしてやるため、口を塞ぐ布を解いた。
「……こいつ、大丈夫なのか……。なんだか、やけに苦しそうだけど、病気とかじゃないよな……。」
いくらか心配になり獣人の顔を覗くと、生理活性物質を真近で吸い込み、頭がグラついた。
「……うっ、なんだこの感じ、」
息苦しく喘ぎ声を洩らすシリルを前に、男の理性は崩壊する。己の欲望のままにシリルの足を掴み、股を左右にひらかせると、自身の暴走した下半身を露出させた。
「あっ!? おまえ! 何やってんだよ!」
「気は確かか!? そいつは商品になるんだぞ!!」
今にもシリルと肉体をつなげようとする男を、他のふたりが止めにはいる。
「ばかが! 獣人に興奮してどうする!」
「そうだ、そうだ! こんな野蛮な連中に……、れ、ん、ちゅう……に……?」
しかし、止めにはいる男たちも意識が朦朧となり、下半身が熱を帯びて凝固してゆく。もはや、気狂い状態に陥った3人は野生動物のように雌を獲り合い、互いに襲いかかる。殴る蹴るをくり返すうち、やがて、怖いもの知らずの男がふたりに勝利して、さっそく裸身になった。
「……はぁ、はぁっ、はぁっ、」
男は、よだれをボタボタと垂らしながら、あお向けに倒れて意識が混濁しているシリルの胴体へ跨がった。
「……おれの雌だ、……おれの、」
すでに、邪魔者はいない。シリルのフェロモンに誘惑され、仲間割れした盗賊3人は凄まじい勢いで傷つけ合い、怖いもの知らずの男の手によって、ふたりの息の根は止められてしまった。
「……ははっ、あーっはっはっ!!」
男は高らかに笑うと、本能のおもむくままシリルの膝を掴み、生殖行為というよりは快楽を優先して肉体をつなげようとする。
「おれのものだ……、おまえは、おれの……!!」
男は、シリルとひとつになる優越感に浸り、挿入を開始した。
発情中のシリルは、自我を保つことができないほど、意識は乱れ、記憶も曖昧になる。だが、体じゅうの細胞がゼニスを求め、無意識に名前だけは何度も呼んでいた。興奮作用が落ちついたあとも、しばらく放心状態が続き、心身ともに無防備となり、精神が安定すまでに要する時間には波があった。数分間と短いときもあれば、半日以上かかる場合もある。
シリルの状態が通常に戻ったとき、辺りは薄暗くなっていた。裸身であることはあまり気に留めず、ひとりきりでポツンと森の中にいる状況が理解できなかった。
「……ディラン?」
いつもなら必ず近くにいる従者の名前を呼んでみたが、返事はない。
「ディラン、どこなの、」
現在地を夜空の星の位置で確認すると、腰をあげて歩きだす。
「……変だな。どうしてぼくはこんなところにいるんだろう。」
ふと、シリルの足取りは重くなる。下半身の違和感に気づいてよろめくと、その背後から伸ばされた腕に、上膊を捉われた。
* * * * * *
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