恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
39 / 364

第 38 話

しおりを挟む

 天然温水地を取り囲む雑木林には、凶暴な肉食動物が棲息せいそくしており、周辺国に足を運ぶ商人や、温水地の先にある墓地へ向かう人々が襲われやすい。そのため、およそ100年前の国王によって建設けんせつされた監視塔サーベイランスにて、見廻みまわりを強化していた。

「おぅ、ゼニス。ご苦労さん。交替こうたいの時間だ。」 
 直槍すやりを手にした中年男ちゅうねんおとこの監視員は、西側を担当する9階の窓辺まどべに立つゼニスに声をかけた。ゼニスは監視員を振り向いてうなずくと、1階の仮眠室へ移動した。腰巻きベルトにさげたつるぎを枕もとに置き、皮靴くつを脱いで寝台ベッドに横たわると、まぶたをとじて浅い眠りにつく。コスモポリテスの軍人ぐんじんは、直槍や鎌槍かまやりを武器として基本装備するため、国内でつるぎあつかう者は少なかった。
 ゼニスは男として心身ともに充実し、何事なにごとさかんに活躍できる年頃としごろに達していたが、監視員として閉鎖的へいさてきな空間に身を置く生活をあえて、、、送っていた。本来の性格は気短きみじかあらっぽく、戦地へみずかおもむ傭兵ようへい生業なりわいとしていたが、現在ゼニスには、この場所サーベイランスを離れられない理由があった。かつて、おさないシリルと交わした約束を守るためである。ゆえに、獣人族けひとぞくの領域に近い監視塔へとどまり、いつでもシリルの元へ駆けつけることが可能な日常を確保キープしていた。また、ゼニスは獣人族の習性や両性具有の特徴を熟知じゅくちしており、シリルの成長過程はある程度予測できている。そして、約束の日、、、、が近いこともわかっていた。

 いっぽうシリルは、従者であるディランに下世話をまかせていたが、小さい時からそれが当たり前につき、無防備な姿をさらしてばかりいた。ディランは成獣につき、その気になれば発情中のシリルと交接は可能だが、必ずしも子を宿やどせるとは限らなかった。両性具有の受精器官には特殊なまくがあり、子胤こだねを注入するには、それを突きやぶる必要がある。オスが無理やり膜の奥へ生殖器を挿入そうにゅうすると、シリル側に激痛が走り、するどきばや爪で、肉体を裂かれる危険が伴った。つまり、シリルの合意がなければ、誰も手をだすことはできないのである。

「ぼくはね、成獣おとなになったらゼニスの赤ちゃんを産むんだ。」
 シリルは湯浴ゆあみの時間になると、ディランに股をひろげながら、笑顔でそんな話を始めた。
「ゼニスとは誰のことです、」
「ゼニスはゼニスだよ。」
 ディランはシリルの男性器に指で触れ、湯でしぼった布で裏側まで丁寧に拭いた。
「……シリル様は、なにも感じませんか。」
「ほぇ? なにが?」
「……いえ、なんでもありません。私の失言です。お忘れください。」
 ディランは「申し訳ございませんでした」と謝罪の言葉を述べたが、シリルはふしぎそうな顔で「変なディラン」と、つぶやいた。シリルの前発情期は後半にさしかかっており、興奮状態におちい頻度ひんども高くなっていた。それは、成獣となる日が近づいている証拠でもあった。
遺跡ルーインは、どうでしたか。」 
 ディランはシリルの背中を拭きながら、話題を変えた。ひと月ほど前、シリルは遺跡をひとりでおとずれている。
「うん、大丈夫だよ。みんな、、、元気そうだった。」
 シリルの云う“みんな”とは、恭介からスーツを脱がそうとしたチビッ子のことである。獣人けひとの未熟児で、遺跡で生涯を過ごすわけあり、、、、の存在である。シリルは獣王子おうじとして、定期的にチビッ子たちのようすを見まもりに出かける。また、遺跡には獣人の王族しか立ち入れない決まりがあり、ディランが付き添うことはできない。ただし、5日以内に帰還しなければ捜索隊が出動しゅつどうし、シリルの安全が優先された。
 続いて、ディランはシリルの胸もとを拭く。小さな突起を指先ででると、「あっ」とシリルが声をあげた。
「なんだか、きょうのディラン、いつもとちがうみたい、」
 そのとおりにつき、ディランは薄く笑みを浮かべた。肌に触れる手つきを意図して変えて見せたが、その思惑をシリルがさっすることはなく、結局、最後まで油断していた。
 ディランは心の内で、姿の見えない“ゼニス”という名の人物をいとわしく思っていた。ひそかな情念じょうねんは、少しずつ従者の理性を狂わせてゆく。

     * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...