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第 37 話 〈リシルド獣王子〉
しおりを挟む恭介が異世界に飛ばされてから、ひと月が経過していた。その頃、西緯の獣人族が暮らす領域では、シリルが暇を持て余していた。
「ぼく、外にいきたい。」と云うシリルに、「ダメですよ」と忠言する男がいた。
「なんでさ。」
と反発するシリルに、
「なんでもです。」
と、短い言葉で応じる男は、ディランルート=ガロム=ユーリーンという名の獣人である。背が高く凛々しい顔をした“成獣”で、シリルの身のまわりの世話をする従者のひとりだった。獣王子のまわりには数人の世話役がいたが、ディランだけが肌に触れることを許されている。その理由は、両性具有であるシリルの伴侶候補として、名があがっているからである。また、獣人同士の交接(生殖行為)は、個体ごとの周期で起こる発情中にしかできないため、誰もが腰布を巻くだけか、裸身で過ごすことが多く、村では家屋の外であっても雌が発情した時は雄がすぐさま交接する必要があり、白昼堂々と行われた。祖先である野生動物の摂理に従って生きる獣人にとって、それは当たり前の光景だった。
裸身で寝台に横たわるシリルは、ディランの内衣を指で引っ張る真似をした。
「なんですか、」
「どうしてディランは隠してるの? 村のみんなは、裸身でいるのに……、」
「私のカラダに興味がありますか。」
「う~ん。ただ、見たことないなぁと思って、」
「獣王子様に、お見せするような肉体ではないからです。」
「その呼び方は、好きじゃないなぁ。ふたりきりの時は、シリルでいいよ。」
「では、シリル様。そろそろ湯浴みをされませんと、日が暮れてしまいます。」
「うん、わかった……。用意して。」
「かしこまりました。」
ディランは頭をさげて退室すると、通路に控える他の世話役に「湯の準備を」と伝える。まもなくして、シリルの塒に温めた水や、綿の添毛が運ばれた。獣人族の湯浴み方法は、水で濡らした布でカラダの汚れを拭き取る程度だが、王族の場合は湯を使い、全身を丁寧に拭く。
シリルはいつものように丸太の椅子に座ると、股をひらいた。最初に排泄器官を清潔にするためである。ディランは綿布を湯でしぼり、「失礼します」と云ってシリルの太腿へ指で触れた。
「……くすぐったい、」
ディランの手がやさしく動くため、シリルは無邪気に笑ってみせる。ほぼ毎日の作業につき、ディランは無言ですませたが、シリルのほうで異変が起きた。突然、カラダが熱を帯び、胸が突出して盛りあがる。
「……あっ、……はっ、はぁっ、」
と、呼吸も乱れた。ディランは前発情期の症状を発っしたシリルを見ても動じることはなく、慣れた動作で対処に移る。シリルの背中を片腕で支えると、もう片方の手を使い、盛りあがった胸を交互に揉みこんで、硬直した筋肉の緊張を解してゆく。下半身も同様につき、シリルの未熟な部位に指を絡めると、ゆっくり撫でおろし興奮状態を鎮める。
「……ゼ、……ゼニスぅ、」
発情中のシリルは、きまって“ゼニス”と口走るが、その名前を持つ獣人は村にはおらず、ディランは眉をひそめるしかない。以前、あらゆる手を尽くし可能なかぎり民間人の戸籍を調べたが、ゼニスという人物はコスモポリテスに存在しなかった。ゼニスの正体が異国の傭兵であることは、獣人族の誰にも気づかれていない。
ディランはシリルのフェロモンをまともに吸い込み、意識が朦朧となるが、下半身の暴走までは赦さない。シリルを抱きあげて寝台へ運ぶと、すぐにそばから離れた。
「……ゼニスぅ、……ぼくは……ここだよぅ、」
シリルの発情はおさまっていたが、寝台の上でなお、ゼニスを求め続けた。やがて、平静に戻ったシリルは、つい先程の出来事を何ひとつ憶えていなかった。湯浴みの片付けをするディランをぼんやり見つめ、きょうもまた、退屈な1日を過ごした。
* * * * * *
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