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第 24 話
しおりを挟む恭介は王子の肩を抱き寄せると、舌を絡め合うキスを続けた。それはもう、恋人同士のような口づけだった。
「キョースケ、」
ジルは左右異なる虹彩をした双瞳で、恭介の顔を見つめた。
「キョー……スケ……、」
名前を呼ぶ声が弱々しく聞こえるのは、首筋に恭介が吸いつくせいである。
「……ダメだ、キョースケ。こんなところで、」
ジルの体質は受け身につき、少しでも積極的に触れられると、耳まで赤くなってしまう。
(……なんか、初みたいな反応だな。今まで、誰とも恋愛したことがないのか? そんな自由はなかったとか? 仮にも一国の王子だしな。……まさか、オレが最初の相手なのか? それだとかなり興奮するぜ。……これならイケそうな気がしてきたぞ)
試しに衣服の衿をひらき、王子の肌へ直に指を這わせようとしたが、寸前で拒まれた。
「キョースケ、やめよ。」
「厭か?」
「そうではないが、吾を弄ぶでない。」
「そんな真似するかよ。ふつうに反応が見たかっただけだ。」
「反応? なぜだ、」
「かわいいなと思って、」
「調子に乗るでない!」
ジルは衿を合わせ直すと、恭介の頬を指先で摘んだ。
「ジルヴァン、痛いよ、」
「キョースケが、むっつりスケベだったとは不覚だ……、」
「今からでも情人を取り消すか?」
「そのような戯言は、二度と申すな。貴様は吾の愛人である。軽はずみな発言は控えよ。」
「……そうか、すまない。」
「わかればよい。今すぐ誓え。」
「誓うって、どうすれば……?」
云いながら、恭介は(あ)と思った。共同浴場の廊下でしたように、ひざまずくとジルの左手をすくい、甲にキスをする。
(たぶん、これで当ってるよな……)
王子の機嫌を損ねては情人失格である。恭介は正しい判断をして、ジルを満足させることに成功した。
「赦す。立て。」
「サンキュー。」
「さんきゅー?」
「ああ、感謝するって意味だ。」
「貴様は、吾の知らぬ言葉が話せるのか?」
「うん? どうだろうな。英語と中国語なら多少は話せるが……、」
「えーご、ちゅうごく、知らぬ国だ。」
「コスモポリテスより、ずっと遠い場所にあるからな。」
恭介は椅子に座ると、苦笑して見せた。いつか、自分の生まれた世界について詳しく語る日がくるとすれば、その相手は目の前の第6王子かも知れない。そう思った。
「なあ、ジルヴァン。情人にしたいと考えるほどオレを気に入ってくれたようだけど、あまり期待はしないでくれ。なんと云うか、その気持ちはありがたいけど、オレは新しく仕事を始めるから、しばらく忙しくなると思う。キミを裏切るつもりはないが、もし、共寝の呼びだしに応じなければ、不安にさせちまうのか?」
「そのようなことは、云うまでもない。環境が変われば、誰だって慣れるまで時間を要するものだ。吾とて、頻繁に要求するつもりはない。貴様が真面目な性格なのは承知している。何事にも熱心に励むおまえだからこそ、信頼できるのだ。吾の逃走を手助けした時の姿は一生忘れぬぞ。あれこそ、吾が求めていた誠実さである。」
「ジルヴァン……、」
王子の本心からでた言葉に、恭介は自然と笑顔になった。ジルは、都合よく恭介の立場を利用しているわけではない。
(……まぁ、国王の許可はまだ得られてないから、どうなるか、わからねーけどな)
「大変お待たせしました。イシカワキョースケさま、国王様がお呼びです。こちらへおいでください。」
ついに、最高位に鎮座する人物と謁見する時がきた。迎えにきた男はジルの姿に目をとめると、深々と頭をさげた。
「キョースケ、堂々と臨むのだぞ。」
「ああ、頑張るよ。」
ジルを安心させるためにそう口走るが、緊張感が半端ない。深呼吸をして部屋からでると、男から拝礼の所作を教わった。コスモポリテス城は横に広い構造をしているため、目的の場所までは長い廊下を歩いた。
(……これって、たぶん、娘さんをオレにください的な挨拶だよな? ……少しちがうか。ってか、どんだけ自信過剰なんだ、オレは……)
今更のようにイケないことをしている気分に陥る恭介だが、国王との謁見には挑むしかない。自分の存在が公認されるかどうかは、国王次第である。
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