恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 23 話

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 午後になり、恭介は身体検査を受けに城へ向かった。相変わらず門衛の視線はピリピリとしていたが(だからオレは私奴やっこじゃねぇっての)、認可証を見せた途端とたん、背筋をのばして「どうぞおとおりください!」と云う。認可証に印字されている第6王子の名前を目にして、驚いたにちがいない。
(ジルヴァンに感謝だな……)
 なんとなく愉快な気分になりつつ、勝手知かってしったるの足運あしはこびで王宮関係者専用の出入口へ進むと、番人から「ご自由にお通りください」と、すんなり道を譲られた。きのうのきょうで顔をおぼえたらしい。さすが、御所ごしょに近いだけあり、門衛とは比べものにならない有能さを備えている。恭介はペコッと頭をさげ、王子に教わった通路を歩いた。

「おぉ~い、そこな青年よーい、」
 少し先で、白髪はくはつの老人が、しわがれた声をだしながら手招てまねきをしている。周囲には誰もいないため、恭介は速歩はやあしで近づいた。
「おじいさん、どうかしましたか、」
「うむうむ、よいツラをしておるのぅ。」
「あ、あの、お爺さん……?」
「ほほぅ。こっち、、、も立派なもんじゃ~。」
 老人は骨張ほねばった細い手で、恭介の下半身をさぐる、、、と「合格じゃ」と云う。その正体にピンときた恭介は、「もしかして」と、つぶやいた。
「オレの身体検査をする人ですか?」
身体検査おしらべなら、もう済んだわい。」
「え?」
おぬし、、、の顔色を見ればわかる。どこも悪くはないはずじゃ。歩く姿勢もよし、ケガの心配もなかろう。よい若さがみなぎっておるわい。ジルさまは御目おめが高いのぅ。」
 身長や体重を測定したり、血液検査などをするわけではないらしい。恭介は、いくらか拍子抜ひょうしぬけした。
「書類は記入してきたかのぅ。まぁ、これも形式的なもんじゃが、渡しておくれ。」
「……お、お願いします、」
 書類を提出すれば、おそらく、後戻あともどりはできない。恭介は用紙を差しだす指がかすかにふるえた。老人に案内された部屋では、王国くにの歴史や、王子との閨事ねやごとについて学んだ。医官いかんの老人いわく、世の中に避妊具と呼ばれるものはなく、情人には同性が選ばれやすいそうだ。
(なるほど……。迂闊うかつに異性と密通できない理由があるのか。ヘマすれば、相手を妊娠させちまう危険があるしな……)
 まだ自覚を持てずにいたが、自分のような人間が複数いるのかと納得した。
「ふむ、しかしおぬしは、ふしぎな使者つかいじゃのぅ。」
 老人は、恭介の髪の色を見て云う。 
「いやはや、これは本当ほんにめずらしいのぅ。おぬしの両親も黒いのかい? どこに住んでおるんじゃ?」
「……両親なら、遠いところにいます。」
「むむ? 遠くとな? 失言しつげんじゃったかのぅ、すまんのぅ。」
 なにも永眠したとは云ってないが、恭介は老人の勘違かんちがいを訂正せずに聞き流した。元の世界について、誰かに打ち明けるつもりはない。ただひとりゼニスの存在をのぞいては〔第5話参照〕。第三者に多くを語るには、まだ早すぎる。そんな気がした。
 ひと通りの説明を聞き終えると、王様付きからの連絡を待つばかりとなる。
「やっぱり、国王こくおうに挨拶しなきゃダメなんですか……?」
「おぬしの持つ認可証の裏には、王様の捺印なついんが必要なんじゃよ。印判はんをもらわない限り、おぬしが公認となって、ジルさまを抱くことはできんからのぅ。」
 恭介は一瞬、印判などらないと思ってしまった。どこかで話が脱線しないか期待していたが、いよいよ、最後の頼みのつなは国王となる。ふるい、、、、に落とされても本望ほんもうにつき、静かに待機した。だが、先にやって来たのはジルだった。

「キョースケ、ここに居たか!」
「ジルヴァン、どうした?」
輪具リングができたゆえ、貴様の指にめてやりたくてな。」
 予期せぬ王子の登場に、恭介の心臓はドキドキと速めの脈を打つ。いつの間にか、医官の老人は空気を読んで退室している。
「手をだせ。」
 と云う王子の命令に、恭介は左腕を伸ばした。人差し指にとおされた輪具リング漆黒しっこくの鉱石である。
「やはりな。黒翡翠ジェダイトがよく似合う。重厚な雰囲気があるし、黒は、ほかの色に染まることもない。きもめいじよ。われを失望させてはならぬぞ。」
 ジルは顔を寄せてくる。恭介はける選択をせず、王子と口づけをわした。

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