恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
16 / 364

第 15 話

しおりを挟む

 食事について、いつもザイールにまかせきりの恭介は、その日、初めて調理室へ足を運んだ。ザイールはひとり暮らしの生活が長いようすで、作る料理はどれもおいしかった。
(……ちょっと云い過ぎたか。まいったな。あしたには機嫌をなおしてくれるだろうか)
 共用の食材と調理器具を使い、野菜炒めを適当てきとうに作ると、ザイールの名前が記してある箸を手にして、食卓につく。買い置きのパンをかじりゆうはんをすませたところへ、同じかいに暮らす男がやって来た。

「よう、おまえさんはたしか、キョースケだったか。ザイールの部屋に居候いそうろうしてる奴だったよな。」
「はい、そうです。」
 気さくに話しかけてくる男は、ボルグ=アドルフォ=ガーランドといって、大柄おおがらな体格をした武官ぶかんである。数日前、通路ですれ違った際に挨拶あいさつわしたところ、よわい35だと告げられ、敬語を使うことにした。
「ボルグさんは、妻帯者さいたいしゃでしたか。」
 男は、左手の薬指くすりゆび輪具リングめていたが、首を横に振られた。
生憎あいにくだが、ひとり身だよ。昔から地方遠征が多くてな。なにしろ安月給やすげっきゅうの階級だから、妻をめとる余裕もない。」
「そうでしたか……、」
 薬指に光るものは結婚指輪エンゲージリングではないらしい。ボルグは、恭介の背中をばしばしたたいてくる。
「なんだ、キョースケ。神官殿ザイールとは仲良くヤれてないのか?」
 恭介は正直に「はい」とこたえ、ザイールを怒らせてしまった事実を認めた。とたんに、ボルグは大笑いした。
「なるほどな! 痴話ちわ喧嘩か? それなら酒でも呑んで、寝込みを襲ってやればいいさ」
「はい?」
 なぜか機嫌をよくしたボルグは、食器棚から果実酒を持ち出すと、恭介の分まで硝子ガラス洋盃コップいだ。
素面シラフのままじゃ、ヤりにくいだろうから、遠慮せずに1杯呑めよ。」
「やるって何を……、」
 文脈の流れでさっすることは可能だが、つい訊ねてしまった恭介に、ボルグの太い腕が伸びてきた。
「あぁん? なんだよ。おまえさんの股間コレかざりモノかぁ?」
「ちょっと!? どこさわってるんですか!!」
「ほう、けっこうデカイな。」
 衣服の上から下半身をさぐられ、鳥肌が立つ。この世界の住人は下着パンツを身につける習慣がないため(というか、下着と呼べるものがないため)、ボルグの指がじかれたように感じた。
「おまえはザイールの恋人だから、一緒に暮らしてるンじゃないのか?」 
「え? ええっ!? まったく違いますよ! そんな関係じゃありません。」
 恭介は困惑しつつ、ボルグが注いだ果実酒を(せっかくなので)一気に呑み干した。
(おっ、なかなかうまい酒だな)

「ごちそうさまでした」と云って食器の後片付あとかたづけをする恭介に、ボルグは食卓の椅子イスに腰をかけながら質問した。
「おまえさんって、あまり見ない面構ツラがまえをしているが、どこら辺の出身なんだ。」
「……ご想像におまかせします。」
「なんだよ、秘密主義か?」
「そう云うわけではありませんが、出身地は誰にも教えていませんので。」
「へぇ、おもしろい奴だな。仕事は?」
「それが、今は無職なので探しているところです。」
「そうか、かしこそうな顔をしているのに、無職とは意外だな。」
 褒められた気がするので「どうも」と、こたえておく。食器洗いがすんでボルグを振り返ると、恭介は雑談ついでに就職先がないかたずねてみた。
「どこかに、オレにできそうな仕事がありませんかね。肉体労働は向かないと思いますが、場合によっては、それもしかたないと考えています。」 
 恭介が真剣な表情をして云うと、ボルグはあごに手を添えて「そうだなぁ」と、思考をめぐらせた。数十秒後、「そうだ!」と云って何かを思いだす。
「城内の掲示板に、求人情報の貼り紙がしてあったな。」
「城の求人ですか?」
「ああ。一般公募はしていないが、要するに、関係者向きの内職みたいなモンだ。」
 一刻も早く定職に就きたい恭介だが、貼り紙の情報を掘り下げた。
「その求人について、詳しく聞かせてもらえませんか。」
「仕事内容は、事務的な作業だったかな。書類整理とかなんとか、そんなようなことが書いてあったぞ。気になるなら、あすにでも見に行ってこいよ。」
 恭介は「そうしてみます」とうなずき、部屋まで戻った。ザイールは相変わらず寝室に引きこもっていたが、ひとまず、そっとしておくことにした。

          * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...