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第 7 話 〈王宮を目ざして〉
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* * * * * *
異世界で2日目をむかえた恭介は、睡眠不足のうえ、ひどい頭痛に眉をひそめた。カラダのあちこちも筋肉痛になっている。実のところ、シリルに欲情した自分に呆れていた。青年だと思っていた人物が、女性特有の生理器官を併せ持つと知り、下手に意識してしまう。
「キョースケ、おはよう。よく眠れた?」
「お、おはよう、シリルくん。ま、まあまあ眠れたかな、」
口ごもるし、嘘をつく始末だ。現在のシリルに、発情期の特徴である乳房は見られない。ふだんからきれいな顔をしているが、妙な色香はない。だが、青年は恭介のシャツを着ており、その下は裸身であるため、直視できずにいた。
(おい、しっかりしろよ。何を考えてるんだオレは……)
シリルは両性体であることをまったく気にしないようすで、林道に立つゼニスの背中に抱きついた。
「ゼニスも、おはよう。よく眠れた?」
「ああ。そこそこな。」
「きょうは中央広場の宿に泊まりたいな。ぼく、人間が使う寝台の上は好きなんだ。」
シリルは爪先立ちをしてゼニスに顔を近づけると、頬へ軽くキスをした。
「きのうはありがとう。やっぱりゼニスって強いね。」
ゼニスは薄く笑みを浮かべ、恭介を振り向いた。
「いつまでもぼんやりしてるな。置いていくぞ。」
と云って歩きだすが、恭介は内心突っ込んだ。
(いやいや、それはないだろ。あんたは城になんの用があるんだ? だいいち、シリルがオレを案内するはずだろ? 主役を置いてけぼりにしないでくれ……)
林道を抜けると、煉瓦で舗装された道がしばらく続いた。そこで恭介は、コスモポリテスの住人と初めてすれ違う❲ゼニスは異国民:第4話参照❳。通行人は旅行商の類が多いらしく、それぞれに大きな荷物を背負っていた。そのうちの何人目かをゼニスが引き止めた。
「シリル、キョースケ。ふたりはここで着替えろ。その姿では目立つ。」
そう云ってゼニスは行商人から履物と衣服を2着ほど買いつけた。シリルは見るからに何も持っていないし、恭介は無一文につき、勘定はゼニスにまかせるしかない。
商人は、恭介とシリルの顔をジロジロ見ながら「毎度どうも」と云って立ち去る。ゼニスから手渡された布は一張羅だった。着物みたいにカラダの前で衿を合わせ、腰に帯を巻くスタイルだ。ちなみに、靴は草履ではなく、皮製の長靴である。恭介はどこか着替える場所を探したが、シリルはその場でシャツのボタンを解きはじめた。
「うわっと、待て待て! シリルくんはダメだ。こんなところで脱ぐな。」
いきなり制されたシリルは「なんで?」と目を丸くした。
「ダメなものはダメなんだ。こっちへ来てくれ。着替えるなら、そこの木陰がいい、」
ゼニスは、シリルの手を引いて歩く恭介の背中を見送り、小さくため息を吐いた。肌を露出する際は人目を避けるべきだと考える恭介だが、シリルに至っては、発情さえしていなければ見た目は獣人族の青年につき、かまう必要はなかった。
木陰でのシリルは、頭からすっぽり被るワンピースのような布に身を包まれた。ひらひらと裾が風に揺れると、恭介は目を逸らすしかない。もはや、どこからどう見てもシリルが異性に思えてしまう。恭介は、おかしな感情をどう納めてよいのかわからず、頭を悩ませた。
「キョースケ、それ要らない。」
「え?」
タンクトップとズボンを脱いで一張羅に袖を通すと、シリルから下着を指で示された。
「布は1枚だけでいいんだ。だから、これは要らないよ。」
「どわーっ!? わかった、わかった! 自分で脱ぐから、キミは触るな!」
下着を脱がされそうになった恭介は、他者に素肌を晒すことに慣れていない。学校や職場で強要される健康診断さえ苦手だった。先にシリルをゼニスのところへ向かわせ、ひとりで着替えをすませて合流した。
「わっ、キョースケかっこいい。」
「そ、そうか?」
「うん、とっても似合ってる。」
「シリルくんのもかわいいよ。」
恭介が口をすべらせると、シリルは照れ笑いをした。その笑顔に和みつつ、ゼニスと3人で再び歩き始めた。
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