恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第 7 話 〈王宮を目ざして〉

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 異世界コスモポリテスで2日目をむかえた恭介は、睡眠不足のうえ、ひどい頭痛に眉をひそめた。カラダのあちこちも筋肉痛になっている。実のところ、シリルに欲情した自分にあきれていた。青年だと思っていた人物が、女性特有の生理器官をあわせ持つと知り、下手に意識してしまう。
「キョースケ、おはよう。よく眠れた?」
「お、おはよう、シリルくん。ま、まあまあ眠れたかな、」
 口ごもるし、嘘をつく始末だ。現在のシリルに、発情期の特徴である乳房は見られない。ふだんからきれいな顔をしているが、妙な色香はない。だが、青年は恭介のシャツを着ており、その下は裸身はだかであるため、直視できずにいた。
(おい、しっかりしろよ。何を考えてるんだオレは……)

 シリルは両性体であることをまったく気にしないようすで、林道に立つゼニスの背中に抱きついた。
「ゼニスも、おはよう。よく眠れた?」
「ああ。そこそこな。」
「きょうは中央広場の宿やどに泊まりたいな。ぼく、人間が使う寝台ベッドの上は好きなんだ。」
 シリルは爪先立つまさきだちをしてゼニスに顔を近づけると、ほおへ軽くキスをした。
「きのうはありがとう。やっぱりゼニスって強いね。」
 ゼニスは薄く笑みを浮かべ、恭介を振り向いた。
「いつまでもぼんやりしてるな。置いていくぞ。」
 と云って歩きだすが、恭介は内心突っ込んだ。
(いやいや、それはないだろ。あんたは城になんの用があるんだ? だいいち、シリルがオレを案内するはずだろ? 主役を置いてけぼりにしないでくれ……)

 林道を抜けると、煉瓦レンガ舗装ほそうされた道がしばらく続いた。そこで恭介は、コスモポリテスの住人と初めてすれ違う❲ゼニスは異国民:第4話参照❳。通行人は旅行商たびぎょうしょうたぐいが多いらしく、それぞれに大きな荷物を背負せおっていた。そのうちの何人目かをゼニスが引き止めた。
「シリル、キョースケ。ふたりはここで着替えろ。その姿では目立つ。」
 そう云ってゼニスは行商人ぎょうしょうにんから履物はきもの衣服ころもを2着ほど買いつけた。シリルは見るからに何も持っていないし、恭介は無一文むいちもんにつき、勘定かんじょうはゼニスにまかせるしかない。
 商人は、恭介とシリルの顔をジロジロ見ながら「毎度どうも」と云って立ち去る。ゼニスから手渡された布は一張羅いっちょうらだった。着物みたいにカラダの前でえりを合わせ、腰におびを巻くスタイルだ。ちなみに、くつ草履ぞうりではなく、皮製の長靴ブーツである。恭介はどこか着替える場所を探したが、シリルはその場でシャツのボタンをきはじめた。

「うわっと、待て待て! シリルくんはダメだ。こんなところで脱ぐな。」
 
 いきなり制されたシリルは「なんで?」と目を丸くした。
「ダメなものはダメなんだ。こっちへ来てくれ。着替えるなら、そこの木陰こかげがいい、」
 ゼニスは、シリルの手を引いて歩く恭介の背中を見送り、小さくため息を吐いた。肌を露出するさい人目ひとめを避けるべきだと考える恭介だが、シリルに至っては、発情さえしていなければ見た目は獣人族けひとぞくの青年につき、かまう、、、必要はなかった。
 
 木陰でのシリルは、頭からすっぽりかぶるワンピースのような布に身をつつまれた。ひらひらとすそが風に揺れると、恭介は目をらすしかない。もはや、どこからどう見てもシリルが異性に思えてしまう。恭介は、おかしな感情をどう納めてよいのかわからず、頭を悩ませた。

「キョースケ、それ、、要らない。」
「え?」

 タンクトップとズボンを脱いで一張羅にそでを通すと、シリルから下着パンツを指でしめされた。
「布は1枚だけでいいんだ。だから、これ、、は要らないよ。」
「どわーっ!? わかった、わかった! 自分で脱ぐから、キミはさわるな!」
 下着を脱がされそうになった恭介は、他者に素肌をさらすことに慣れていない。学校や職場で強要される健康診断さえ苦手だった。先にシリルをゼニスのところへ向かわせ、ひとりで着替えをすませて合流した。
「わっ、キョースケかっこいい。」
「そ、そうか?」 
「うん、とっても似合ってる。」
「シリルくんのもかわいいよ。」
 恭介が口をすべらせると、シリルは照れ笑いをした。その笑顔になごみつつ、ゼニスと3人で再び歩き始めた。

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