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第 4 話 〈シリルとゼニス〉
しおりを挟む〈ゼニス=ディーン=ルークシード〉は、コスモポリテスの住人ではなく、戦闘を生業とする傭兵である。背が高く、適度な筋肉があって体格もよい。監視塔の職務について数年になるが、それまでの経歴は荒ていた。剣と呼ばれ、両側に刃のある重たい武器を腰からさげている。
〈リシルド=ディアラ=ガーデンハーツ〉は、獣人族の王子であり、見た目は二十歳くらいで細身の青年だが、実年齢は30を過ぎている。つまり、恭介より年上だった。しかし、獣人の細胞は特異につき、リシルドの精神年齢はまだ幼いほうである。〈シリル〉という通名を持っていた。
* * * * * *
林道で黒い物体に襲われた恭介は、もうダメかと思い目を瞑ったが、ドカッ、ギャウンッ!!、タタタッ、ガサッ、という連続音を耳にする。カラダから重たいものがどこかへ逃げてゆき、瞼を開ると、シリルと背の高い男が立っていた。
「シリルくん、よかった。無事だったのか……、」
襲われたのは自分のほうだが、シリルの顔を見たら安心して云う。鞘に納めたままの剣を手にした男は、紺色の髪を短く整え、藍色の眼をしていた。恭介を無言で見おろした後、周囲を警戒する。
「キョースケ、立てる?」
「あ、ああ、大丈夫だ。」
シリルに声をかけられた恭介は、何かに押し倒されたものの、物体の全体像はよく思いだせなかった。ひとまず、ズボンの砂利をはらいながら、命の恩人である男に感謝した。
「どうもありがとう。助かったよ。」
意図して、敬語は使わなかった。必要な場合に限り、しかたなく用る性分である。男は周辺を注視するため、シリルが代わりに紹介した。
「あのね、キョースケ。このひとはゼニス。ぼくたちを王宮まで護衛するんだ。よろしくね。」
「そうか、それは心強いな。こっちこそ、よろしく頼む。」
会計士のクセで依頼人へ握手を求めたが、ゼニスは恭介の動作には目もくれず、シリルと会話した。
「じきに太陽が沈む。野宿をするのはかまわないが、あと3キロは先へ進んだほうがいい。」
「うん、そうだね。寄り道をしちゃったから、今夜は野宿かな。」
「おまえが温水地に来るなんて、めずらしいじゃないか。」
「うん、そうだよ。あのひとが、興味があるみたいだったから連れてきたんだ。」
「なるほどな。おかげで、久しぶりにいいものを見れたぜ。」
「いいものって?」
「シリルの腰から下の未熟な部分。」
「それのどこが、いいものなのさ。」
「望遠鏡で、しっかり拡大したからな。前に見たときより、少しは成長しているようだな。」
「ぼく、そう云う冗談は好きじゃない。」
「おれがいつ冗談を云った? おまえの裸身は目の保養になるよ。」
「もう、いい加減にして。そんなの知らない。」
なにやら親しい間柄のようだったが、シリルはプイッと顔を横へ向けると、恭介の腕にしがみついた。
「行こう、キョースケ。ゼニスはとっても強いけど、すごく変態なんだ。」
「エッチ? そうなのか?」
恭介はシリルに腕を引かれて歩きだす。そのうしろからゼニスがついてくる。これから2日間ほど、3人での移動が続くことになる。遺跡からコスモポリテス城までの道程は、それなりに遠かった。シリルいわく、変態らしいゼニスだが、青年よりずっと大人に見えるため、恭介は話がしたいと思った。この国について、あるいは世界について、見識を深めるために。もはや、そう簡単に自宅へ帰れる気はしなかった。だが、現在は空腹であることがつらい。なんでもいいから、食べものと水がほしかった。
しばらくすると、シリルは林道の樹木から橙の実を椀ぎ取った。
「キョースケ、あげる。」
「それは?」
「被子植物の果物。苦いけど、酸っぱくておいしいよ。」
腹が減っていたので、ありがたく口へ運んだ恭介は、あまりの不味さに吐きだした。“苦くて酸っぱいもの”がおいしいわけもなく、シリルは味覚音痴ではないかと内心疑った。
* * * * * *
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