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幕 開 け ※イラストあり
しおりを挟む「神官殿!! それは為りません!! 絶対にダメですからねっ!!」
「ああっ!? 武官様っ、これはイケません!! ……って、いつも云ってるだろーがァ!!」
きょうも、キョースケの声が城内に響く。ここは異世界、“コスモポリテス”と呼ばれる壮大な王国である。
* * * * * *
秋の夜長、石川恭介は、アパートの自室で、持ち帰った資料を整理していた。会計士として事務所を構えたばかりにつき、残業の日々が続く。恭介は齢27にして、開業を果たした成人男性である。大学卒業後は叔父の会社で実務経験を積み、修了考査に合格した後、銀行からお金を借りて、こじんまりとしたプレハブの事務所を建てるまでに至る。
これからが本格始動だという時に、日頃の疲れが蓄積していた恭介は、リビングの絨毯へ倒れ込むと、そのまま居眠りをした。そして、目が醒めたら“世界”が変わっていた。
「……あれ?」
恭介の全身は、大量の白い羽根に埋もれていた。やわらかくて温かいため、寝そべっていると瞼が重くなる。このまま眠っても、朝になれば目覚まし時計のアラームで起きるだろうと思った瞬間、頬をバチッと平手打ちされた。
「な、なんだっ!?」
「それはこっちのセリフだ! おまえこそ、なんだ!?」
見れば、小さな子どもに囲まれていた。数十人はいる。つい先程までの静寂は消え去り、にわかに騒がしくなった。
「オ、オレは、あやしい者じゃないっ。キミたちこそ誰なんだ?」
これは夢かと思いつつ言葉を発したが、ビンタされた痛みがある。けっこう痺れていた。何が起きたのか、まずは状況を判断する必要があった。しかも、自分を取り囲む子どもたちは、なぜか裸身で、誰も気にしていない。恭介はというと、仕事用のごく一般的な黒いスーツを着ていたが、奮発して買った高価なネクタイは消えていた。
ゆっくりと立ちあがってみると、視界に広がる景色に息を呑んだ。濃緑の葉を繁らせた樹木が迷路のように蔓延り、見たことない草花が群生している。どこかの温室かと思えたが、そんな場所に足を運んだ憶えはない。
「どうなってるんだ、これ……、」
恭介は唖然としたが、頭上を見あげると、太陽のまぶしさに目が眩んだ。いつの間にか、離れた位置に誰かが佇んでいる。遠すぎて、表情は確認できない。人影は、ゆっくりこちらへ向かってきた。肩がけにした絹衣で肌を隠していたが、裸足で歩くようすを見るかぎり、それ以外は何も身につけていないと思われた。
「すみません、ここは何処ですか? オレ、わけがわからなくて……、」
先に声をかけると、目の前で足をとめた人物は、コーラルレッドの双瞳で恭介の顔を見つめた。
(こいつ、男だよな? 目が赤い、それに肌の色も少し茶色いか……)
恭介は、自分より背の低い相手を見おろした。きれいな容貌をしていたので、女とまちがえそうになるが、よく見ると喉仏があった。ゆえに、性別は男だと判明する。年齢は二十歳くらいである。初対面の青年に現状を訊ねたが、なぜか返事を得られない。無言で凝視され、妙に気まずかった。
「そんなに見つめるなよ。オレの顔に、なにかついてるのか?」
つい軽口を述べると、青年は首を横にふった。恭介を指で示し、子どもたちへと視線を移す。
「みんな、この人間は“侵入者”だから好きにしていいよ。このぼくが、赦してあげる。」
と云って、ようやく口を破る。物騒な発言を耳にした恭介は、瞬時に青ざめた後、「おい!?」と短く叫んだ。
* * * * * *
↑受け身の王子ふたりです。参考までにどうぞ(汗)
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