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第82回[白状]
しおりを挟む好きな男と抱きあう英理の心は、ひときわ満たされていたが、実体のない脆弱な存在である以上、いつか、飛英の意識に吸収されるかたちで、自我を放棄することになる。別人格として表面化が可能なうちに、他者から求められるよろこびを実感するため、あらゆる場面で媚びてきた。両親の死後、常に孤独を感じて過ごす飛英の心境こそ、現在の英理が抱える問題と弱点である。礼慈郎という主人を手に入れた今、実体をもつほうが圧倒的に有利な立場であることは変わらないのだ。
『……なんだい、あたしったら、みっともないねぇ。この期におよんで、嫉妬してるのかい。……こんな醜い感情に負けちまって、情けないわぇ。……涙は、お告げかもしれないねぇ。……あたしには、かならずおしまいがくるんだ。』
英理は礼慈郎を見おろすと、背中を反って『あーっはっはっは!』と高笑いした。それから、張りつめた糸が切れたかのように意識が途絶えた。礼慈郎は体位を変えるため、いったん性交を中断すると、英理の腕を引き寄せ、布団のうえに寝かせた。頬をぬらす涙に指で触れ、呼吸を確認するため顔を近づけ、そっと口づけた。
「……織原、」
我に返った飛英は、至近距離で礼慈郎と見つめ合い、一瞬、ぎょっとした。うす暗い書斎に、いつの間にか裸身の礼慈郎と戯れている。さすがに当惑したが、いつまでも弱腰ではいられない。
「れ、礼慈郎さん……、」
「驚いたか?」
「……はい。でも、どうかやめないで。……わたしは、平気です。」
愛人として役目を果たしたい飛英は、続行を望んだ。礼慈郎は小さく頷き、青年の額の痣を撫でると、ふたたび愛しあうことにした。
「……うっ!」
「痛いのか。」
「ご、ごめんなさい……、」
はっきりと意識のある飛英は、異質なぬくもりを挿入された瞬間、涙目になってしまった。礼慈郎は、なるべくゆっくり腰をふり、飛英の興奮作用を先に処理すると、青年の体内領域へ熱い飛沫を放流した。引き抜く前に、いちどだけ強く腰を突きあげると、飛英はつらそうに、ぎゅっと、瞼を閉じた。
「すまん、織原……。」
相手が英理ならば容赦なく腰をふったが、肩をふるわせて涙をがまんする飛英を見るかぎり、無遠慮な真似はできなかった。
✓つづく
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