向こう岸の楽園

み馬

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第76回[私感]

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 物質の転化と継起につながる生産性こそ、人間の原始的な生命活動であり、同類の血を引く一族は、身をもって享受できる快経験に群がった。集落に住まう男衆は、狂った織江により共通の理念を説かれて成長し、ひとりの青年を凌辱する行為さえ、必要な共同作業として、重要視するようになっていく。

 せまい環境で暮らす人々は、空想の世界を創造しているため、自己意識の修正をきらい、いやしくも放埒ほうらつな田舎者でいたほうが、行動で欲求を解消することができた。抑圧された不安や罪悪感は、露出症的な反動として昇華される。個人という生物の種を証明できる結合関係は、現実と向き合った結果であり、当人が不快感をおぼえるものではない点から、受け身の苦痛は排除され、正式な行事として確立するまで、あまり時間を要さなかった。

「……こ、このようなことは、無意味です! もう、やめてください……っ、あぅっ!」

 次から次へと、男衆の浅ましい欲望を体内へ挿入される飛英は、強烈な吐き気と痛みに耐えながら、いよいよ、限界を感じた。容赦なく腰をふられては、意識が途絶えそうになり、遠慮なく射精されるたび、胃液が逆流してきた。「おぇっ!」と唾液まじりに口から吐きだすと、挿入中の男から、ガリッと薄い胸板へ爪を立てられた。血がにじむ皮膚に男の舌が這う感触は、夢にしては生生しく、精神が崩壊する寸前、うす闇の空ではなく、杉の無垢材(天井板)が視野へひろがった。

 狩谷家の書斎で目をさました飛英は、勢いよく上体を起こし、掛け布団のなかを確認した。これといって異常は見られず安堵するも、大量の寝汗で湿しめった麻衣が肌に張りつき、息苦しさを感じた。湯を浴びるため起きあがると、すぐとなりの和室で書き物をしていた鷹羽は、書斎の物音に気づいて筆をおいた。先に障子戸をひらいたのは、飛英だった。座布団から腰をあげた鷹羽は、一瞬、幽霊を見たかのような錯覚に捉われたが、すぐに相手が声を発したため、即座に気を取りなおした。

『まいったね……。いやな夢をみちまったよ……。風呂場は、どこだい?』

 恥じることなく着物の衿をひらき、片手をヒラヒラ揺らして汗ばむ肌へ風を送る仕草しぐさや、額の痣を気にもせず平然と前髪を掻きあげる大胆な行動を見るかぎり、別人格が飛英の肉体を占領せんりょうしていると思われた。

「おまえ……、英理か?」

 飲酒店スナック・バーにて、前もって飛英の二面性について礼慈郎と談義している鷹羽は、落ちついて青年と向き合った。英理は、相手の探るような表情に、くすッと笑い、帯を解いて素肌をさらした。

『ああ、そうさ。あたしは英理さ。どうだい、この肉体からだ。ほしけりゃ、先生、、に、あげてもいいわぇ。……ちょうど、人肌が恋しくなってきたところでねぇ。』

 り足で近づき、鷹羽を誘惑する英理は、ガッと、手頸てくびを強く摑まれた。その場に引き倒され、いきなり股のあいだへ顔をすべり込ませた鷹羽に、敏感な部位をくわえこまれた。思わず「きゃあ!」と、女のような声をあげ、我に返った。

「た、鷹羽さん!? なにをして……、」

 予期せぬ状況におびえる飛英は、太腿の内側から顔をあげた鷹羽と目が合うなり、耳まで赤くなった。

「どうやら、平常に戻ったようだな。安心しろよ。少し、味見をしているだけだ。礼慈郎の許可も取ってある。」

 性器を撫でる鷹羽の指づかいに動揺する飛英だが、興奮作用があらわれる前に、身じろいでのがれた。


✓つづく
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