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第70回[仲間入り]
しおりを挟む思考を停止するまえに
常識をうたがえ。
覚悟もなしに、
前方へ進むことは許されない。
なすべきは、実行中の事柄ついて
最大の関心をしめすことだ。
〈狩谷鷹羽『あがく指』より〉
長旅の終着駅で待っていたのは、鷹羽と、丸眼鏡をかけた彦野虹助だった。飛英と礼慈郎が改札を抜けて姿をみせると、鷹羽のほうから近づいてきた。
「ふたりとも生きてたか。」
開口一番、不穏な科白で両人を茶化す鷹羽に、彦野が「物騒ですね」と、口をはさむ。
「鷹羽さん!」
飛英が声をあげると、「元気そうで安心した」といって笑みを浮かべ、礼慈郎へ視線を向けた。
「よう、どうやら有意義な時間を過ごしたようだな。ふたりとも、いくらか顔色が明るくなった。」
結果を先読みして探りをいれる鷹羽は、わざとらしく礼慈郎の肩をポンッと叩くと、傍らの記者を紹介した。
「こっちは、彦野さん。新聞社の人間で、おれの仕事仲間だ。」
「どうも、初めまして。彦野虹助と申します。狩谷先生には、日頃からお世話になっています。」
礼儀正しく頭をさげて挨拶する彦野は、誰が見ても人の良さそうな顔をした三十代前半の男である。親しみやすい雰囲気を持っていたが、色もかたちもぼやけた(皺が目立つ)スーツを身につけていた。着るものに頓着しない性格なのか、本人はまるで気にしていないため、飛英も礼慈郎も深く考えないことにした。互いに名乗って挨拶をすませ、広場へ移動した。
「長旅で疲れただろう? 立ち話より、どこかへ腰を落ちつけるか。」
という鷹羽に、礼慈郎は眉を寄せた。電話で帰還の報せを受けた鷹羽は、新聞社の人間といっしょに駅舎まで出迎えにきた。わざわざ彦野を引き合わせた理由は、訊ねるまでもない。礼慈郎は言外に示された意図を正しく見ぬき、小さく頷いた。昼間でも静かな場所に心当たりのある鷹羽は、先頭に立って歩きだす。状況判断に遅れた飛英に、礼慈郎が「行くぞ」と声をかけた。
飛英と軍人と、作家と記者という妙な組み合わせは、朝から春夏冬中の看板をだす飲酒店へ足を運ぶと、壁ぎわの席についた。鷹羽が4人分の珈琲を注文すると、「早速ですが」と切り出したのは、彦野だった。
✓つづく
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