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第55回[再出発]
しおりを挟む死への合唱をもって、
契約が成立する。
歌え、生きたいと思う絶叫を。
今生より死せるまえに。
〈狩谷鷹羽『かがやく指』より〉
海のない山奥で、水の音がひびく。川で洗顔をすませた礼慈郎は、かつて、集落の調査をしたという教授に地方史をならう書生の滝沢と、行動を共にしていた。
「う~ん……、ほんとうに織原さんが、この先にいますかねぇ。いくら着ていた梅小紋が見つかったとはいえ、もしかしたら、他の場所へ移動している可能性も疑うべきでは? どこかに山小屋があって、避難しているとか……、」
「そう思うのであれば、無理して付き合う必要はない。おれは、もうしばらく山奥を見てまわる。」
「……り、利玄さんの体力って、底なしですか? さすがに二日続けての山登りは、きついですね。足腰が痛くなってきました。……ゼェ、ハァ、」
もとより、里帰りの途中だった滝沢に、集落へ向かう予定はなかった。偶然出逢った飛英に、廃村の話を持ちだした結果、ひと足さきに到着した彼が行方不明になったと勘違いしている滝沢は、息を切らせて礼慈郎の背中を追いかけた。
「……そういえば、織江という町医ですが、産科を開業する前までは、生物体を切り開いて内部の構造を分析する、解剖医の助手をしていたと、集落の人々に吹聴していたようです。当時の詳しい資料は残っていませんが、帝王切開で赤子をとりあげたという話は、あながち虚偽とは思えなくなり、一時、周囲から尊敬されていたのかも……、」
滝沢は、ぶつぶつと独り言を口走りながら歩いた。風土の型によって文化は独自に展開され、宗教的なものは、人間の精神面へ染みこみやすい。廃村に根づいた悪習は、まさに、織江の狂気による謀(はかりごと)だが、額の痣は遺伝的な要素である。しかし、性欲を刺激して淫らな儀式を行うことで、一族の繁栄が約束されると主張する織江は、集団心理をあやつることに成功し、実権を掌握しつづけた。その町医の最期を知る者は、残念ながら存在せず、魔窟と化した集落は、当然のごとく滅びの道をたどった。
「田舎に伝わる奇習は、今では考えられないような恐ろしい内容のものが多くみられますが、閉ざされた集落では、特別視されていたことも事実です。……ぼくの曾祖父が暮らしていた村では、火葬で骨だけになった故人の御魂を引き継ぐという風習があり、なんでも、喉仏の骨をひろい、もっとも親しかった人が呑みこむそうです。……ちょっと、気味が悪いですよね。」
斜面を歩く速度は落ちるいっぽうの滝沢だが、口だけはよく動き、先をいく礼慈郎の耳まで届いた。故人の骨を食べるとは、信じがたい風習である。帝都育ちで身分の高い礼慈郎は、ストリップ劇場へ足を運び、初めて俗世を知る機会に恵まれた。すべては、鷹羽に付き合って闇市を訪ねたさいの偶然にすぎないが、飛英の身請は、自分自身で決めたことである。
「……骨抜きにされたのは、むしろ、おれのほうか。」
節操をなくしたつもりはないが、妻である菊乃より、心をひきつけられている礼慈郎は、あらためて、飛英の血筋と向き合い、決着をつける必要性を感じた。
✓つづく
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