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第46回[迷推理]
しおりを挟む自働電話の本体に肘をのせて受話器を耳にあてる礼慈郎は、まず、相手の文句を聞き入れた。
「あのさ、今、何時だと思ってる? というか、都合よく結果だけ知ろうと思うなよ。その愚かさにたいして、忠告は割愛する。だが、事情があるにせよ、おれを数にいれるなら、きちんと説明しろ。」
おおかたの予想どおり、怒気を含んだ声で応じる鷹羽は、「英は見つかったのか?」と訊いてくる。廃村で飛英の無事を確認できなかった礼慈郎は、返事を保留にした。
「思っていたより、迷路のような廃村で、手強いようだ。明日、もういちど集落へ行く。現在地は山合の無人駅だ。……云っておくが、この状況を説明してほしいのは、おれのほうだ。織江について、わかったことを聞かせてくれ。」
電話口で同時に小さく肩をすぼめたふたりは、織原飛英の二面性と、廃村まぎわの産科で誕生した赤子について、因果関係があると考えていた。鷹羽は、新聞社で働く彦野と作業を分担し、織江の素性を可能なかぎり調べあげた。
「簡潔に云う。自尊感情の高い医者が悪習を引き起こした。その余波が今でも残っているかどうかの調査は、おまえが進行中だろ。」
「悪習とは、どんな、」
「男の妊産が、すべての始まりだろう。女性でさえ、安心して子どもを産める世の中とはいえない時代に、帝王切開で胎児をとりあげた事例は少ないからな。それに、一般的に確立された医療行為だとしても、母体の死亡率は高い。織江の処置に過失があったかどうかは、云うまでもない。目を向けるべきは、誕生した赤子の社会的立場だ。いくら山奥の集落とはいえ、異例すぎる物事を受けとめるには、個人の思想を操作して、強制的に改造する必要がある。」
「……織江が、自分の都合よく村人を洗脳したと云うことか。」
「おそらく、似たような真似をしたはずだ。赤子を引き取って育てた織江だが、人体を開腹したときに、狂っていたのかもしれない。そんなやつのそばで日常を送った人間は、どうなると思う? ……意見を求めたわけじゃないぞ。だいいち考えたくもない。」
語尾を強める鷹羽に、礼慈郎は何もこたえず、無言で顔をしかめた。
✓つづく
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