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第34回[向こう側]
しおりを挟む今まさに、礼慈郎の腕に抱かれる飛英は、ふしぎな夢をみていた。
自分とよく似た顔の青年が、澄んだ池に裸身で浮いている。仰向いて瞼を閉じたまま、水面をたゆたう姿は、まるで死体のように見えた。水飛沫をあげて走りよる男は、奇妙なほど静まり返った情景を打ち破り、青年を池の対岸へ引きあげると、蘇生させるため、口唇を合わせて息を吹きこんだ。胸に耳をあて、鼓動を確かめると、冷えきった躰を抱きしめた。
瞼をあけた青年は、ほほ笑みながら呪文をとなえる。その途端、男は声もでないほど慄き、青年の躰を突き放した。その男の額には、黒いシミのような痣があった。放心したようすで池を見つめた後、虚な顔つきでふり返る。男を狂わせた青年は、池の畔で快楽に溺れた。肉と血が交わる影を、月明かりが照らしている。激しい興奮の最中で男は斃れ、青年も失神した。
やがて、長い白髪の男があらわれ、互いの肉体をつなげたまま動かないふたりを目にして身をかがめると、二体を池の底へ沈めた。しばらくすると、青年の躰が水の面へ浮かんだ。白髪の男は青年を助けあげると、ぬれた前髪の下に青紫色の痣がうつされていることを確認した。青年と交わった男は、死体となって水底の泥に埋まっている。白髪の男は白い肌の青年を抱きかかえ、闇のなかへ姿を消した。
淫呪の血は、近親者による性交と犠牲を伴って受け継がれ、忌まわしい一族の長きにわたる慣習の産物である。痣の色素が濃くなるほど、宿主の神通力は満ちるとされ、親等の近い男と性的な儀式を行う。水底で命を落とした男も、慣習にしたがって我が子を一族の後継者に捧げている。
白髪の男によって祭壇へ運ばれた青年は、淫呪の血で先祖を供養する役割を果たす必要があった。強い酒を呑ませて意識を混濁させると、どこからともなく集まってきた一族の男衆に囲まれた。闇に蠢く人影は、シャンシャンと鳴りひびく鈴の音に合わせて腰をふり、無抵抗の青年をあえがせた。白髪の男は、青年の股のあいだから流れる血を盃に溜めると、祠に供えた。ひと晩で幾人もの男と交わった青年は、もはや正気ではいられなくなり、別人格を生みだしつつあった。それこそが儀式の最終段階であり、青年の肉体と精神が毀れるまで、男衆は白い肌に群がった。
「……織原飛英、いつまで眠っている。そろそろ起きたらどうだ。」
誰かに名前を呼ばれて夢から醒めた飛英は、下腹部の違和感に気づき、思わず叫び声をあげそうになった。
「落ちつけ。おれだ。よく見ろ。」
「れ、礼慈郎さん……?」
「そうだ。いいかげん力を抜け。このままでは動けん。」
云われて、飛英はガクガクと膝がふるえた。腹底を圧迫する異質なぬくもりは礼慈郎の欲望であり、自身の性器も飽和状態になっている。
「いっ、痛い、……やだ、こわい!」
「落ちつけ。おれの顔を見ろ。」
取り乱す飛英は涙があふれてしまい、礼慈郎の顔がぼやけてよく見えなかった。拒むつもりはなかったのに、下半身に余計な力がはいってしまう。そのせいで引き抜くこともできない礼慈郎は、苦しい状況を強いられた。
「織原、なぜ泣く。」
「わ、わかりません……。ですが、これ以上は無理です……、ご、ごめんなさい……っ、」
弱音を吐く飛英は、両手で顔を隠して泣きだした。礼慈郎は少しずつ腰を引き、なんとか結合を中断した。
✓つづく
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