向こう岸の楽園

み馬

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第33回[淫呪の血]

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 それは、礼慈郎の本心だった。飛英を愛人として手に入れた今、その身を英理の思いどおりにさせるわけにはいかない。人格の変わる瞬間を幾度か目にした礼慈郎は、足を投げだして躰を横たえる英理を見つめ、思考をめぐらせた。きっかけさえつかめれば、いくらでも対処可能な案件である。現在の英理は、肉体を放置されることをきらう。ふたりの扱いをまちがえるほど無能ではない礼慈郎は、小さくため息を吐くと、無防備な姿をさらす英理に声をかけた。

「おい、そんな恰好で不貞腐ふてくされるな。そこにあるおれのシャツを着ろ。」

 礼慈郎の脱いだシャツが、足許に落ちている。英理は聞こえないふりをして、ピクリとも動かない。しかたなく礼慈郎が近づくと、いきなり首筋へ噛みつかれた。出血する前に突き放したが、英理は素速い動きで礼滋郎の胴体にしがみつくと、勢いのまま押し倒した。紫紺の眼で軍人の顔をのぞきこみ、わざと野卑な口ぶりで、心の内を探ろうとしてくる。

『このあたしを、束縛できるとでも思っているのかぇ。できるものなら、やってご覧よ。いいかい、あたしがほしいのはね、至上なる狂気さ。堅物な軍人ごときが、あたしをこわせるもんかぇ。』

「ならば、試してみるか。」

 礼慈郎は、英理が油断している隙に革ベルトを手探りして引き寄せると、力づくで態勢を逆転させた。軍人に腕力を発揮された英理は、抵抗むなしく腹這いに倒され、手頸を背面で縛りあげられた。

『……っ、この、小賢こざかしい真似を!』

「暴れるな。怪我をするぞ。」

 英理の肩を摑んで仰向けに反転させると、礼慈郎は相手の口腔へ舌を挿入し、口唇くちびるふさいだ。長い口づけにおよぶと、息苦しさのあまり、英理は不利な状況を認め、『堪忍しておくれ』と、咽喉のどをふるわせて詫びた。

「この程度で降参するのか?」

『……ふんっ、あたしは淫呪いんじゅの血が薄いのさ。なにもかも、あの男、、、のせいだ。』

「なんの話だ。」

『あたしの肉と血は、生まれたときから人間を狂わせる。いつだって、向こうからよってくるって話さ。独占できると思ったら、大まちがいだわぇ。』

 悪あがきにしては、謎めいた発言をする英理だが、礼慈郎は手頸を締めつけるベルトをはずしてやった。英理は悔しそうに表情をゆがめつつ、捨て科白ゼリフを吐く。

『せいぜい気をつけなんし! 軟弱そうに見えて、この宿主、、、、は享楽主義だわぇ。どんなに誠実な男でも、容易たやすく骨抜きにされてしまうよ。』

 自由の身になった英理は、最後に礼慈郎の顛末てんまつをほのめかして笑うと、ぷつりと、見えない糸が切れたかのように躰を横たえた。ストリップ劇場で飛英の額縁ショーを目にしたとき、すでに心を揺さぶられている礼慈郎は、英理のことばに眉をひそめると、なめらかな下腹部へ指を這わせた。すると、夢の世界にいるはずの飛英だが、外的な反応を示した。

「……織原、感じているのか? 今夜、その身に愛人のしるしを刻むと云ったはずだ。いつまで眠っている気だ。……そろそろ起きろ。」

 肌へ触れてくる礼慈郎の指づかいによって欲望がかたちとなってあらわれても、飛英の意識は回復せず、礼慈郎は悩んだ末、最後までやり遂げることにした。奥まった開口部に指を挿入して内側をひろげると、硬くて太い男根(英理いわく、大砲らしい)を、無理やり体内へ埋めこんだ。

「……織原、……っ、」

 飛英の腹底は収縮をくり返しながら、異質なぬくもりをしめつけてきた。


✓つづく
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