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第16回[予兆]
しおりを挟む驚いたが、抵抗はしなかった。飛英は礼慈郎の口づけを受けながら、ゆっくり長椅子へ躰を横たえ、仰向いて瞼を閉じた。ガウンの前をひらかれ、紐パンのなかへ指がすべりこんでくる。だが、感覚が麻痺しているかのように、飛英が無反応を示すと、礼慈郎の手は離れていった。
「ほんとうに白板なのか。……なめらかすぎて、同じものがついているとは思えんな。」
そのことばで性器を撫でられたとわかった飛英は、起きあがって顔色を赤くした。
「立てるか。」
問われて、小さく頷く。もはや、飛英の主人となった礼慈郎の態度に険しさは感じない。長椅子においた軍帽をかぶると、念書の控えを差しだしてきた。
「これは、おまえが持っていろ。劇場をでたあとは、しばらく狩谷という男に世話を頼んである。ただし、おれが身請人だということを忘れるな。」
「……は、はい。わかりました。」
礼慈郎は、何度か狩谷の名を口にする。数週間ほど前、ストリッパーの取材をするため、顔を合わせたことがある作家だが、飛英が思うより彼等の関係は親しいようだ。
「荷物はどれくらいある。」
「え? あ……、鞄に少しだけです。」
「ならば、まとめておけ。明日の午后、むかえにくる。」
そういって階段をおりていく礼慈郎の背中を熱心に見つめる飛英の腹底は、にわかに、うずいた。ストリップ劇場で働きだしてから、わずか短期間で身請が決定するとは夢にも思わず、今更、咽喉が痙攣した。
ふらふらとした足取りで部屋に戻ると、床へしゃがみこみ、しばらく放心状態となった。やがて接吻の感触を思いだし、心臓がドキドキと高鳴って、頭が冴えてくる。
「……あした、ここをでていく。わたしは、自由になった?」
闇市の住人は、キラの許可なく遠出することはできない。ストリップ劇場に身をおく者は、余計な感情を持ちこまないよう、第三者との交際は禁止されていた。軍人の行動が唐突すぎるように感じたが、どうやら身請を考えている人物は、もうひとりいたらしい。その紳士は、薔薇の花束を脇において、今夜も最前列に坐っていた。M字開脚をきめるたび、身をのりだして拍手をするため、性欲は強いだろうと思われた。
「利玄……礼慈郎さま……、」
金持ち風情の紳士を相手にするより、軍隊に所属し、規律正しい日常を過ごす礼慈郎のほうが、不安材料は少なかった。舞台直後で疲れていた飛英は、ガウンを脱ぐと、紐パンのままベッドへもぐりこみ、眠りに落ちた。
オーン、オーンと、低い声で誰かが泣いている。飛英は、白い着物姿をしており、うす闇のなかをぽつんと立っていた。泣き声が聞こえるほうへ歩いていくと、背後に人影が迫り、首を絞められるところで目が醒めた。
飛英は、同じ夢をみたことがある。ベッドのうえで、そう思った。泣き声の正体と原因は、いつかわかるのだろうか。ふしぎな夢を気にしてぼんやりと天井を見つめていたが、午后には礼慈郎がむかえにくるため、あわてて風呂場へいき、身なりをととのえた。楽屋のほうから話し声が聞こえ、扉の隙間からのぞきこむと、ストリッパーの椿が従業員の男と熱い接吻をしていた。ぎょっとして息をのみ、足音をしのばせて通りすぎた。克衛を好む椿だが、まったく相手にされないため、従業員を誘惑し、性欲を処理していた。
色事に無関心ではすまされない立場となった飛英は、荷物をまとめると深呼吸をくり返した。部屋の鍵を机に残し、劇場の入口へ向かった。
✓つづく
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