向こう岸の楽園

み馬

文字の大きさ
上 下
13 / 100

第13回[悪趣味]

しおりを挟む

 作家の狩谷鷹羽かりやたかはは、ストリップ劇場の記事を新聞に載せる仕事を引き受けている。そのため、礼慈郎とはべつに劇場を訪ねると、責任者の花園はなぞのに許可を得て、ストリッパーの取材を開始した。あいにく、主演ダンサーの椿つばき留守るすにつき(休業日は克衛かつえの小屋でくつろいでいるらしいが、実際は何をやっているのかあやしむ声もある)、額縁ショーをになう飛英が食堂に呼ばれた。

「どうぞ、紅茶です。」

 飛英がカップを差しだすと、鷹羽は筆記帳ノートをテーブルにおき、「ありがとう」といって受け取った。正面の椅子に坐る飛英をじっと見つめ、「はなぶさって、普段はそんな感じ?」と、くだけた調子でく。窓辺に飾られた3つの花瓶には、どれも薔薇が生けてある。

「……そんなとは、どういう意味でしょうか。」

「舞台だと、紐パン一枚で過激なポーズをきめるだろう。そうやって前髪を垂らしていると、別人に見えるからさ。」

 念のため白粉おしろいをぬっていたが、長い前髪で額の痣を隠している。返すことばもなく黙りこむと、鷹羽は、くすッと笑った。

「知ってたか? 額縁ショーのとき、壁ぎわの席に坐ると、きみのものが見えるんだ。……はっきり云ったほうが、わかりやすいかな。」

「……わたしのもの、とは?」

「きみって、生まれつき白板パイパンなのか? 陰毛を剃っているようには見えなかったから、あれは天然ものの男根ということになる。」

 率直な発言をして飛英をたじろかせる鷹羽は、ついでとばかり、同性愛者であることを打ち明けた。

「云っておくが、男なら誰でもいいわけじゃない。きみのような二面性をもつ人間は初めてだが、おれにとっては守備範囲だ。いつでも相談にのるし、代金は請求しない。」

「あの、いったい、なんの話ですか……、」

 鷹羽は取材相手を困惑させておき、紅茶のカップを口へ運んだ。筆記帳に何かを書くふりをして、笑みを浮かべる。

「礼慈郎のやつ、案外、野蛮やばんだな。」

「れいじろう……さん……?」

「陸軍士官学校の教官で、上級大佐の利玄りげん礼慈郎だ。やつは、実演デモのときからきみを知っている。おれが劇場に誘った。」

 利玄礼慈郎、それが闇市で飛英を呼びとめた軍人の名前だった。鷹羽は、礼慈郎が(その後も)ひとりで劇場へ通っていることを知っていた。まちがいなく目的は飛英であり、堅物で気むずかしい性格の礼慈郎が、めずらしく頭をさげ、金を借りにきた。黒いスーツの紳士より先に飛英を身請みうけするためだが、利玄の屋敷には妻の菊乃がいるため、しばらくのあいだ世話を頼むとまで云いだした。ストリップ劇場に連れだしたのは、鷹羽のほうであり、少なからず手を貸す義務が発生している……と思われた。

 まっとうな軍人が、独占欲と快楽に溺れるさまに着目した鷹羽は、今後の展開に心がかれた。高みの見物けんぶつをきめこむより、胸を貸して楽しむことにした。飛英の値打ちならば、すでに承知しているつもりだった。

「やつの話より、きみの意見を聞かせてもらいたい。これはおれの仕事だからね。……質問してもいいかな?」

 気安い口ぶりである。人づきあいが得意ではない飛英は、鷹羽の左手に視線を落としていた。薬指に指輪をはめておらず、妻帯者ではないと思いつつ、子どもの扱いがうまそうな印象を受けた。また、狩谷鷹羽は、下心したごころを隠すのがうまかった。


✓つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

【R18BL】下落理(げらり)

上月琴葉
BL
タイトルのみTwitterのタグにより福寿 今日亜さんより頂きました。 ――人の欲の果て、下落理とよばれるバケモノを消し去る欲喰師(よくばみし)の鉱妖の狼青年、狼夜(ろうや)とある大罪を犯しその身で下落理を浄化することを宿命づけられた兎耳の青年兎月(うづき)の「罪」と「希望」のBL退魔風ファンタジー。 ルース・シェルシェ作品群、【秋津】の過去の物語 時間軸……凍刻の翼からみて大体100年前。鉱妖四家成立前。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...