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第11回[熱視線]
しおりを挟む見られている。舞台に立つ飛英は、客席からの視線がどこへ集中しているのか、肌で感じることができた。とくに、V字開脚のときは、最前列の客が身をのりだして、なんとか紐パンの中身を盗み見ようとする動きもあった。正面からでは期待するようなものは確認できないが、壁ぎわの席に坐る軍人と紳士の目には、飛英の性器が見えていた。ふたりの男は、椿たちストリッパーによる全裸ダンスが始まると、いくらも見ないうちに席を立ち、受付には薔薇の花束が届けられた。
「お疲れさま。今夜もきていたわね、黒いスーツの紳士。あれは絶対に英が目当てよ。その花束が、なによりもの証拠だもの。このわたしの魅惑ダンスを無視して帰るなんて、相当の惚れこみようだわ。」
上演後、飛英が食堂の花瓶に薔薇を生けていると、椿がやってきた。黒いスーツを着た紳士は毎晩のように足を運び、花束を残していく。責任者の花園いわく、まだ枯れてもいないうちに蕾の薔薇を持ってくるのは、いつまでも散らずに咲きつづけてほしいという、願望のあらわれらしい。確かに、スーツの紳士は常連客となっていたが、飛英は、数日置きにやってくる軍人の存在が気がかりだった。どちらの男も、きまって壁ぎわの席に坐っている。V字開脚のさい、性器が見える角度であるとは知らず、飛英はふしぎに思っていた。単純に、最前列のほうが表情などを含め、よく見えるだろうにと考えている。
「花園さんが、脱がせたがってるわよ。」
「え、」
「冗談よ。英は、ダンサー向きの躰つきではないわ。きっと、額縁ショーが、うってつけだったのね。」
椿は廊下にでて、シャワーを浴びに風呂場へと歩いていく。食堂の花瓶は3つしかないため、古いものを処分しなければならなかった。そもそも、飾る台がない。花束は衛生管理の規則により、部屋への持ちこみは禁止されている。また、劇場の受付で、ストリッパー写真の販売を開始すると、あっという間に在庫が切れた。スーツの紳士は、飛英の写真を何枚も購入したそうだ。その後、何事もなく、ひと月が経過した。
西陽が沈み、劇場の看板に電灯が点るころ、いつものように鏡台の前で念入りに白粉をぬる飛英は、額の痣が以前より濃くなっている点に気がついた。生まれつきとはいえ、このような痣がなければ、今とは異なる生活を送れたかもしれない。精神的なよりどころのない(それどころか身寄りもない)飛英は、孤独感に捉われるたび、ベッドのうえでしのび泣いた。
今夜の額縁ショーは、新しいポーズをきめる日だった。これまでより大胆で刺激的なものでなければ、常連客は満足しない。椿に相談した結果、四つん這いや、M字開脚を提案された。いっそ、紐パンをさげて性器を露出させる手もありだという。椿自身は全裸で踊りを披露するストリッパーにつき、肉体の魅せ方を熟知していた。骨ばった体形に自信のない飛英は、柔軟体操のポーズを真似たものと、M字開脚にきめたが、紐パンは臀部を覆う生地が細いため、腰を落として姿勢を低めると食い込んできた。
性器は隠せていたが、奥まった開口部(尻の穴)が見えている。M字開脚のポーズで静止するあいだ、飛英の心臓は激しく脈を打った。出番が終了すると、あわてて舞台そでにいき、ガウンを着こんだ。しかも、今夜にかぎって礼慈郎は正面に坐っていた(壁ぎわの席が空いていなかった)。
「は、恥ずかしい……。また、あの人に見られてしまった……、」
舞台上では椿が全裸で踊っていたが、軍人の姿は消えていた。
✓つづく
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