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第37話
しおりを挟むついに、自分の正体を疑うものがあらわれた以上、ジェイクは更に警戒を強めた。とはいえ、岩壁の裏にロンファを放置したままでは気がかりにつき、周囲の人影に注意を払いながら島の東緯側へ向かった。立入禁止の境界線を越えてゆき、青年を探す。すると、ロンファより先にジェイクが着せたシャツを発見した。
「……これを脱いだのか?」
裸身でうろつかれては危険が増すため、ジェイクは岩場の奥へと進み、なんとか無事に恋人との再会を果たした。
「ロンファ」
「あ……、ジェイクさん……」
「元気そうでよかった」
「う……ん、なんともない……よ」
「とりあえず、服を着てくれないか。昼間から大胆な姿を見せられては、俺の調子が狂う」
「ど、どこか悪いの……」
心配そうに近づくロンファの肩にシャツを添えたジェイクは、「絶好調だ」といって、笑みを浮かべた。
「それより、おまえの話が聞きたい。あまり長居はできないが、まずは落ちつける場所を確保しよう」
ジェイクが先に岩場を移動しはじめると、あとからロンファもついてくる。青年は裸足につき、なるべく安全な足場を見つけて歩くジェイクは、ついでに“祓浄め”の儀式について話題をふっておいた。
「俺が別火生活を強いられる日は、おまえのところへ行くことができない。クムザという医者によると、周期があるようだが……」
平らな場所で立ちどまり、ロンファに腕をのばしたジェイクは、細い手首を軽く引き寄せると、水色の眼を見つめた。
「そろそろ、秘密を教えてくれないか」
「ひみつ……って、なにを……」
「なんでもいい。まだ俺に話していないことを、おまえの口から聞きたい」
真剣な表情で見おろされたロンファは、小さな声で「いいよ」と応じた。
「ぼくの……知ってること、ジェイクさんに伝える……」
そうしてロンファは、海へ視線を向けると、いちどだけ深く息を吸い込み、ゆっくり吐いた。
「あ、あのね……、ぼくのお父さんとお母さんは、人間じゃないのかもしれない……」
「人間ではなければ、なんだと云うのだ」
「よく、わ、わからないけど……」
「なぜ、わからない?」
「……ぼくが生まれたとき、そばに……誰もいなかったから……」
ロンファの表情が翳ると、ふたりのあいだに強い風が吹き抜けた。
✓つづく
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