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第36話
しおりを挟むロンファに会うため、早朝に病院を抜けだしたジェイクは、海岸沿いを歩くなか、またもや背後に人の気配を察して眉をひそめた。
(……誰だ?)
ファブロス島の人間にちがいはないが、こちらに気づかれないよう、足音を立てずに歩くため、相手には目論見があると思われた。
(なぜ、俺を尾行する必要がある? こんな時刻から病院を見張っていたとなると、きょうが始めてではないな……。また、あいつか……)
ロンファとの逢瀬を邪魔されるのは二度目につき、ジェイクのほうで相手の意図を問い詰めることにした。目的を変更し、立入禁止区域ではなく、隠れる場所が少ない平らな浜辺に向かう。すると、いくらか足音が遠ざかり、ジェイクを尾行することをあきらめたのか、相手が堂々と姿をあらわした。
「……やはり、おまえか」
「あんた、ジェイクリッドといったな。おれはジョグンという者だ」
生意気な口調で名乗った若者は、褐色の肌に貝殻のネックレスをさげ、黒髪の毛先はハネ気味である。予想どおり、桟橋で気絶させた男と同一人物につき、言動には注意する必要があった。ジョグンは、ロンファの存在を知っている。
「それで? 俺になにか用か」
「ああ。この際だから、はっきり訊かせてもらう。もし、あんたが本物の〈化身〉ならば、いつ〈水竜〉が降臨するのか、わかるはずだ。予兆もなしに、この島にあらわれた場合、目的はなんだ? 侵略か?」
「侵略……?」
「そうだ。あんたは、身分を偽って上陸した帝国の人間じゃないのか? だとしたら、今すぐ出ていけ!」
「俺が、帝国の人間だと?」
ジェイク自身も、その可能性を考えていなかったわけではない。ジョグンに詰め寄られたことにより、人によってはそう見えるのかと、思考をめぐらせる。とはいえ、確信がないうちは、下手に肯定して、今後の調査に支障がでてしまうのは避けたい。ファブロス島を追いだされてしまった場合、ジェイクの生きる術はないといっても過言ではない。現在地を陸の孤島のように感じるジェイクは、敵意を向ける若者を適当にあしらっておく。
「だとしたら、どうする? この島は、帝国が乗っ取るほど価値があるということか? 悪いが、きょうまで見てまわった感想は、文明の遅れた孤立無援の小国だ。こんな小さな島に帝国軍が押し寄せて、わざわざ開拓するとは思えない」
「な、なんだと!?」
「それに、俺は軍人ではない。今のところはな。……生まれつき青い髪をしているが故、おまえらを騒がす存在なのは認めざるを得ないが、そう結論を急くな」
「よくもそんなことが云えるな! おれは、この目で見たんだ。あんたは、水色の髪の男に……っ、水色の髪の……? あ……れ……?」
「どうした」
「うっ、あ、頭が……」
ジョグンは、ロンファとの関係をジェイクに訊ねようとしていたが、なぜか頭痛に襲われ、めまいさえ起きた。その場にガクンッと手足をつくと、激しい耳鳴りに顔をしかめた。
「なんだ……? ジェイクリッド、きさまなのか? ぐぅっ、これは、きさまがやっているのか!?」
「なんの話だ」
謂われのない罵声をあびたジェイクだが、ジョグンのようすを気にかけて砂浜に片膝をついた。
「ジョグン、しっかりしろ」
「寄るな! おれに近づくな!」
原因不明の体調不良が引き起こされたジョグンは、にわかな恐怖心に捉われ、ジェイクの前から逃げるように立ち去った。
✓つづく
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