青竜のたてがみ

み馬

文字の大きさ
上 下
35 / 43

第33話

しおりを挟む

 外傷は見あたらないが、呼吸が弱々しいロンファを抱きあげたジェイクは、洞窟の外へ向かった。周辺の地形は足場が悪く、夜の海は波が高い。ザパーンッと、岩に打ちつけるたび、白い泡が花びらのように舞っていた。

「……ジェイクさん、どこ行くの」
「どこでもいい。今は、できるだけ洞窟から離れたほうが安全だ」
「どうして……」
「誰かに襲われたのだろう?」
「……え」

 ジェイクは、裸身はだかのロンファをお姫様抱っこした状態で、さらに東緯ひがしを目ざした。予想以上に軽いため、触れ合う箇所は多くとも、ロンファの存在感が薄い。見境をなくしたジョグンに襲われた場所は西側につき、ジェイクは見当ちがいをしていたが、ロンファは否定しなかった。実際、ロンファの頭は少し混乱しているため、ジェイクの腕に身を委ねることで感じ取れる体温が、ひどく心地よかった。

「……ありがとう、ジェイクさん」

 ロンファはジェイクの首筋へ、ぎゅっと、しがみつき、瞼をとじた。人間が自分を助けようとしている。それは、初めての経験だった。ロンファを抱きあげたまま、不安定な岩場を歩き続けたジェイクは、切り立った崖下に、身を隠すことができる岩壁いわかべを見つけた。

「よし、ここならば見つからないだろう。当分の間、あの洞窟には近づくなよ」
「……わかった」

 ジェイクはシャツを脱いでロンファに着せると、フッと、笑みを浮かべた。自分が〈水竜の化身〉だとすれば、ロンファは何者なにものとして扱うべきなのか、ふと、真面目まじめに考えた。クムザは、かつて〈ロンファン〉と呼ばれた水色の髪をした青年が、海に還ったという。ロンファ自身は、海で水霊の子を宿やどした人間が、赤児を生んだという。

(……どちらの話も民間伝承にすぎないが、海に関係があるようだ。……やはり、ロンファは人間ではないのか? 本人の口から正体を明かしてもらいたいところだが、俺こそ、いまだに何者なのか不明だしな……)

 ふたりは暗い夜の海を見つめ、沈黙していた。ジェイクは、世間の目をさけて暮らす理由をロンファにたずねるべきか悩んだが、やむを得ない事情を掘り下げる真似は、気が引けた。

(……ロンファを守ると決めたのは俺だ。下手に追い詰めたくはない)

 ジェイクは、そっとロンファの肩を抱き寄せ、恋人との時間を大切にした。


✓つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

処理中です...