青竜のたてがみ

第28話

　海岸沿いを歩くジェイクの背後に、しのび寄る影がある。〈水竜の化身〉として大事にされるジェイクの正体を怪あやしむジョグンは、病院から出てきたジェイクを尾行びこうした。

「……あいつ、どこへ行く気なんだ。毎日ふらふら歩きまわりやがって、目的はなんだ？　このおれが、おまえの化けの皮を剥はいでやる」

　ジェイクの日課は、島の散策である。本日は西緯にしへ向かっていた。ファブロス島には、いくつもの小高こだかい山があり、中でも標高1200メートルほどの活火山は、数百年前に小規模な噴火をしたばかりだという。島民のあいだでは、周辺に近づかないよう、注意喚起されていた。

（島全体は、そこまで広くはなさそうだが、北緯きたは男性禁止の場所につき、正確な地形までは把握できんな……）

　丘陵の谷間から、自然な水が湧きだしている。ジェイクは渇かわいた咽喉のどを潤うるおしながら、背後から人の気配を感じ取る。

（……誰かに後あとをつけられているな。……俺を監視する理由はなんだ？　否いな、水竜の化身としての能力を、試ためされているのかもしれんな）

　島民の多くは好意的な態度で接してきたが、なかには、余処者よそものを忌避して、近づこうとしない人間もいた。ジェイクは、尾行の対処をどうすべきか考えつつ、さらに海岸沿いを歩き続けた。すると、桟橋さんばしに佇む人影を見つけ、思わず立ちどまった。

（ロンファか……!?）　

　船が着岸するために陸域部から水上に向けて作られた橋状の係留場けいりゅうばに、水色の髪をした恋人が立っていた。しかも、裸身はだかである。逆光につき、白い肌がより際立って見えた。とっさに背後を振り向くほどまぬけではないが、瞬時に（マズイ）と悟さとったジェイクは、数秒ほど頭を悩ませた。自分を尾行する相手が何者なにものであろうと、このままロンファと接触すれば、青年との関係が知られてしまう。それ以前に、ロンファの存在を秘密にしておきたいジェイクは、強硬きょうこう姿勢を押し通した。

（悪いが、こうするしかない）

　踵きびすをかえして近くの植物へ駆け寄ると、桟橋の人影に目を奪われていたジョグンを殴りつける。ガッと、後頭部へ強い打撃だげきを受けたジョグンは、何が起きたのかわからないまま気絶した。ドサッと倒れ込んだジョグンを肩に乗せると、桟橋へ視線を向けた。遠目でも、ロンファと目が合ったような気がしたジェイクは、ホッと、ため息を吐いた。

「さてと、こいつ、、、をどうするか……」

　ロンファは、足もとの麻布シャツを着こむと、ジェイクのいる陸地までゆっくり向かってきた。


✓つづく