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第20話
しおりを挟む「リェータからここだって聞いて、捜しにきたんだ!」
息を切らして駆けてくるプルプァは、「たいへん! たいへん!」と、ジェイクの右腕を摑んだ。
「すぐに来て! 浜に見たこともない生物が打ち上がってるんだ!」
プルプァのようすは只事ではない。ジェイクは少年に腕を引かれ、急いで戻った。病院の前に、島民が集まっている。
「クムザ、何事だ」
「ジェイクか、せっかく花を見にいったのに、呼び戻して悪かったのぅ」
「かまわん。なにがあった?」
「う、うむ……。おまえさんなら、近づけるかもしれん。今すぐ海岸に行って、漁師たちを助けてやっとくれ」
「助ける?」
「なんでも、巨大な生物がおるようじゃ。くれぐれも気をつけてな」
「わかった。見てこよう」
ジェイクが即答して踵をかえすと、「おぉっ、さすが水竜の化身様だ!」と、島民に感謝された。プルプァが「おれも行く!」と云って、あとからついてくる。ジェイクは好きなようにさせ、速歩で海辺まで移動した。すると、数人の漁師が顔をしかめて騒いでいた。足の長さが異なるため、遅れて到着したプルプァが、「あそこ!」といって指をさす。
「……あれは」
たしかに、大きな白い物体が見える。波打ち際に横倒れている生物は、体長6メートルほどで、腹部と思われる中央は、呼吸しているかのように、膨らんだりしぼんだりしていた。漁師たちは、得体の知れない怪魚は不吉だと主張し、誰も近づこうとしない。いっぽうジェイクは、なんの迷いもなく接近すると、じっくり観察した。
「そういうことか」
「ジェイクさま、そんなに近づいたら噛みつかれませんか!?」
プルプァの心配をよそに、ジェイクは「問題ない」と云って、怪魚の正体を鯨だと説明した。それから、覆いかぶさっていた白い布を剥がし、全体を漁師の目に晒した。鯨の息は絶え絶えで、攻撃性もない。白い布は帆船の一部のようで、細かな木材も漂着していた。それは、ガレオス帝国の港から出航した大型船の残骸であったが、ジェイクの記憶はよみがえらなかった。ちなみに、鯨の肉は食用になる。しかし、まだ助かる見込みがあるため、海に還すべきだと判断した。
「プルプァ、今すぐ病院にいって大人共を呼んでこい。誰か、網と縄を持ってきてくれ」
「どうする気なの?」
「海へ還す」
「そんなことできるの!?」
「とにかく急げ」
驚くプルプァだが、走って病院へ向かった。そのあいだ、漁師から手渡された網と縄を使って鯨の尾びれを固定すると、短靴を脱いで浅瀬にはいり、海側から縄を強く引き寄せるジェイクだが、やはり、ひとりの腕力では思うように動かない。しばらく途惑っていた漁師たちも、おそるおそる手伝いはじめた。数分後、プルプァが呼んできた男衆たちは、「あのでっかい魚は、なんだ!?」と仰天する。
「みんな、ジェイクさんは、あの大きな魚を海へ還そうとしてるんだよ!」
プルプァの言葉に、男衆は顔を見合わせた。
✓つづく
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